お片付け
惣山沙樹
お片付け
真由美が家に来る、と言い出したのは、当日になってからだった。わたしは慌てて昨日食べた焼きそばの容器をゴミ箱に入れた。
でも、それだけじゃダメだ。しかし、時間が無かった。わたしは観念して、洗面所に立ち、メイクをした。
「綾子。何これ。ぐちゃぐちゃじゃない」
結局、ありのままの部屋の様子を真由美に見せる羽目になった。わたし自身はというと、いつも通りの完璧なメイクをしたのだが、そのギャップが多分まずかったらしい。
「綾子がこんな部屋に住んでいたなんて……。今日はイチャイチャは無し。片付けるよ」
「そんなぁ」
だが、こんな部屋で真由美と触れ合いたくないのも事実だ。わたしは散らばった靴下をかき集め、洗濯かごに入れていった。
「綾子は身なりはきちんとしてるから、家も綺麗なのかと思ってた」
「ごめん、部屋の片付けだけはどうしても苦手なんだ」
真由美がキャッと悲鳴をあげた。彼女の視線の先には、茶色く濁った液体の入ったペットボトルがあった。
「もう、何よこれ!」
「分かんない」
顔をしかめながら、真由美はそれを持って流し台に行き、鼻をつまんで中身を排水溝に流した。
「綾子。ゴミ袋が足りないから、買ってくるね」
「う、うん」
そう言って真由美は出ていってしまった。一人になった片付けかけの部屋で、わたしはため息をついた。遂に知られてしまった。
真由美はわたしが大学に入って初めてできた彼女だ。付き合ってまだ二ヶ月ちょっと。こんな醜態を晒すには早すぎると思ったが、いずれバレることだったのだ。
「ただいま。飲み物も買ってきたよ」
コンビニのビニール袋から、真由美は缶コーヒーを取り出した。わたしの好きな微糖のやつ。頬が緩んだが、彼女のきゅっと結ばれた唇を見て顔を引き締めた。
「それ飲んだら続きやろうね」
「終わったら、イチャイチャする?」
「もう、ちゃんと片付いたらね?」
真由美はわたしの頭を撫でた。
お片付け 惣山沙樹 @saki-souyama
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