ワンルーム・ぐちゃぐちゃ殺人?事件

さくらみお

ワンルーム・ぐちゃぐちゃ殺人?事件🔍


 結論から言うと被害者ガイシャはぐちゃぐちゃだった。


 小箱の様なワンルームの中。

 そいつの中身は飛び出し、被害者の飛び散った肉が周りの物にこびり付き原型を保っていない。思わず息を吸い込めば、饐えた臭いが俺の嗅覚を襲い、思わず喉奥から酸っぱい物が込み上げて、吐き気を催す。

 思わず「うっ……」と口から嗚咽が飛び出すと顔を背けた。


 そんな惨劇を俺の肩越しに後輩の太田が覗き「ああ、こりゃあ酷いですね~」と平然と呟く。


 ……この後輩はこんな酷い惨状を見て、何故平然としているのか。


「お前、これを見て平気なのか」

「ええ、平気です」


 と言いながら、なんとファストフードのハンバーガーまで齧っているではないか。べちゃべちゃと咀嚼音付きで。

 なんて肝が太い奴なんだ!


「……これは犯人の恨み路線決定だな」

「そうなんですか?」

「こんな惨状で、恨み以外に何があるんだ? ぐっちゃぐちゃなんだぞ?」

「根本さん、犯人の動機に心当たりあるんですか?」

「ある」


 俺はこの饐えた臭いを少しでも緩和するために窓辺へと行き、窓を開けた。

 惨状の部屋とは違い、外は閑散とした住宅街。遥か遠くから電車がカタタンカタタンと走る音が聴こえてくる。……長閑のどかだ……。

 俺は深呼吸し、肺の空気を入れ替えれば滔々とうとうと話し始めた。


「犯人は昨日、大層浮かれていた」

「ほう」

「近隣の情報によると、犯人はいつもなら午前11時過ぎに仕事に出かけるのだが、その日は二時間も早く出かけたらしい。何やら興奮した面立ちで。そして午前10時半に自宅へ帰宅した犯人を目撃した者によると、犯人は見知らぬ車で帰って来て、近隣の目を窺うように大荷物を五つも抱えて出てきたらしい。大きなビニール袋を五つも抱えて」


「そ、それって……」

「ああ、結果。この惨状さ」

「人は浮かれると羽目を外しちゃうからなぁ……」


「だからって、これは許されるべき事件じゃない。俺は犯人を徹底的に糾弾する!!」







 ◆












「ああ、次郎おかえり~!」


「母ちゃん! なんだよ、あのお弁当は! メンチコロッケがぐじゃぐじゃで、周りのおかずと混ざって異臭放っていたぞ!! いつもクッサイ漬物入れんなって言ってんだろ!」

「あはは。ごめ~ん。コロッケが爆発しちゃったんだよ~」

「だからってそんな失敗作入れんなよ! 俺に何か恨みあるのか!?」

「そーよ、昨日は牛豚合い挽肉がグラム58円の激安だったんだから! それなのに、あんたが買い出しを手伝ってくれないから、行きはスーパーまで走ったけれど、帰りは重すぎてタクシー使っちゃって、安いお肉の意味が無くなっちゃったんだからね!! お隣の武田さんにその恥ずかしい現場を見られちゃうし。だから罰として爆発したのを入れてやったのよ!」


「俺は大学がっこうがあるの! 母ちゃんの買い出しに付き合ってられっか! でも、味はめっちゃ旨かった! 最高かよ! また明日もよろしく!!」



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