恋愛脳は喫茶店を語る
美女作家と美男編集、今日は喫茶店にて打ち合わせ。
入店と同時に客の視線を一身に浴びる。
「あれ推理小説家の恋中愛じゃない?
生はやばい。超美人じゃん。」
「もう1人は編集の面鉄心?こっちもイケメンすぎる。何あの贅沢すぎる空間。」
さすが2人とも有名なだけありすぐに気づかれる。
普通であればファンやら野次馬やらに取り囲まれるシーンだが
「一般市民には眩しすぎてもはや近づけない」らしい。
そんなわけで、今日も2人の席から2メートルは人のいない謎空間が生まれた。
そして、この空間だからこそできる話があるのである。
「さて。早速本題に入ろうか。」
席に着いて早々。
肘をついて口の前で手を組む恋中愛。
面も真剣な顔で座り直した。
「喫茶店ってのはね、『デートの定番TOP5』に入るほどカップルが訪れる場所であると同時に『出会いが多いアルバイトTOP3』に入るほど出会いを求める人が多い場所なんだ。つまり、この空間は恋愛感情に溢れているのだよ。」
「今日はこの話をするために来たんでしたっけ。」
「おいおい、こんな話、喫茶店以外でどこでするのかね。」
「まあ確かに。遊園地でその話をされたら、ちょっと待ったって言いたくなります。」
「遊園地でデートは鬼門だぞ?待ち時間をどう過ごすかが腕の見せどころだ。」
「じゃあ恋中先生、今度遊園地行きましょう。僕は先生を退屈になんかさせませんよ。」
「たしかに君と遊園地に行くと待ち時間も楽しく過ごせそうだ。」
面との遊園地で過ごすのを想像したのか僅かに微笑む。
どこからか、グサッと何かが射抜かれる音がした。
「どうしたんだ、面くん。具合でも悪いのか?」
「このまま寝込んだら先生が看病してくれます?
あぁでも、先生に看てもらえたら…僕はそのまま安らかに息を引き取れそうだ…。」
今にも昇天しそうな面。
「そんなに具合が悪いのか?今すぐ救急車を…。」
「いえ、まだ看てもらえてないので死ねません。」
「そんな大病を患っていたのか!?こんなに長い付き合いなのに知らなかったとは…。」
「これは持病みたいなものでして、たまに発作が起こるのです。
でもきっと、近いうちに先生が僕と遊園地に行ってくれるならきっと具合も良くなる気が…。」
「精神的なものなのか?まあ遊園地に行くぐらいでいいのな…」
「では来週の日曜日の予定、先生のご予定分も押さえましたので、お願いします。」
素早くお互いのスケジュールを確認、ブロックをかけること早1秒。
敏腕編集兼ほぼ恋中の秘書の力量が無駄に発揮される。
「あの…ご注文は…お決まり…でしょうか?」
か細い声で接客に来たのは、新入りの女性店員。
あまりに神々しい空間に一歩足を踏み入れると四肢が溶けてなくなると、ホール全員でテーブル担当の押し付け合いをしていたが店長に怒られた結果、贄にされたらしい。
「これはこれは。新入りの可憐なお嬢さん。前々から貴方(の恋バナ)が気になっていたんだ。ねぇ、面くん。」
「そうですね、先生。(若い男ではなく)貴方のような女性が接客に来てくれて良かった。」
「ぁ…」
女性店員(24)には刺激が強すぎたらしい。注文を聞くこと叶わず。
倒れ込んだ彼女は速やかに同僚たちによって回収された。
「あれ。話を聞こうと思っていたところだったのに。今日は体調不良者が多いねぇ。」
「ほんとですね。」
「これは…看病イベントが発生するやつでは…?今のバイトの娘は裏で同僚に看病されていて…実はそいつは密かに彼女のことを…。」
「恋中先生と面くん。先程はうちの者が失礼を。先生はいつもの甘めのカフェオレ、面くんはブレンドで良かったですかね?」
堂々と神域に入ってきたのは店長。彼の落ち着いた雰囲気に、神域も少し中和される。
「今日も男前だねぇ、店長。」
「恐れ入ります。」
「今日こそ一緒にお茶でもどうだい?」
「仕事中ですので。」
「いつもつれないねぇ。じゃあ店じまいした後にでも…。」
「先生、そろそろ打ち合わせを。店長さん、席を外していただけますか?」
「失礼いたしました。それではごゆっくり。」
店長は穏やかな笑みを崩さぬまま軽く一礼し、カウンターへと戻っていった。
「今日こそはと思っていたのに。急にどうしたんだい?真面目に打ち合わせだなんて。」
「変な虫は徹底的に排除しないといけませんので。」
「虫なんていたか?」
「貴方って人は…。そういう鈍感なところも好きですよ。」
「ん?何のことかよく分からんが…。まあいい。話を戻そう。」
数刻ぶりに真剣な顔に戻る。
「1番初めに話した通り、喫茶店は出会いに溢れているわけだが、この喫茶店は今日は何故か厄日。体調不良者がよく出るツキが回っているらしい。そうなると通常のカフェでの恋愛イベントに加えて看病イベントも発生するということになり…。」
「それなら目の前に病人がいますので、早速看病を…。」
この後2時間、恋中の喫茶店における恋愛イベント演説が行われ、面は看病されることなく解散となった。
面、出版社帰社---
「面ー。恋中先生のインタビュー記事掲載の件、段取り説明と内容の事前打ち合わせしてきたか?」
「今日は先生、執筆中の短編の方を急いでおられたから後日にしたんです。」
「そうか。早めにこっちも片付けとけよー。」
「了解です。」
スケジュール帳を見つめてニヤニヤしながら、次の逢瀬の予定を決める、面であった。
恋愛脳に解けない恋もある あいりす @Iris_2052
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