恋愛脳に解けない恋もある

あいりす

恋愛脳には伝わらない

「先生。原稿を受け取りにまいりました。」

「早かったね。さあ、上がって。」

「お邪魔します。」


「早速だが、こちらが今回の原稿だ。」


推理小説家、恋仲愛、32歳。30代前半にして推理小説界隈では大物と称されるほどの人気作家である。それに加えて「クールビューティとはこのことか」と思える美貌により雑誌などにも引っ張りだこである。


「頂戴いたします。」


その担当編集、面鉄心おもて てっしん。恋中を新人時代から支える敏腕編集者である。そしてこちらも無駄に顔がいいため、日本で1番顔が知れ渡っている編集者として有名である。


「それで面くん。私はこれを書くために今回は駅までの道にある喫茶店”KOI-JI”に通っていたんだがね。」

「ありますね。若い店長とバイトの女の子二人が回している小さな喫茶。僕もよく行きます。」

「通ってみて分かったことがある。あそこの店長とバイトの子。デキてるね。」


原稿そっちのけで始まる恋バナ。

そう、この作家、恋バナが大好きなのである。


「ほう。何故そう思われたんです?僕が行く時は話している様子すらなかったですが。」

「そこまで見ていて分からないとは…。話をせずともスムーズな連携。心が通じ合っているからに決まっているだろう。」

「なるほど。しかしそれはプロ意識によるものでは。」

「それに昨日はついに決定的な瞬間を目にしたよ。店長が綺麗な花束をあのバイトに渡していたのだよ。あれは愛の告白に等しいだろう。」

「同じく昨日花瓶の花が新しくなってましたね。」


そう、彼女は恋バナ好きと職業病を拗らせて、目の前の事象が全て恋愛に見えてしまうのである。


「それはそうと、恋中先生。今日は一段とお綺麗です。そんな先生に似合うお花を買ってきました。好きです。」


そしてこの担当編集は恋中愛にぞっこんなのである。


「ありがとう。今日も世辞が上手いな。枯れないうちに花瓶に生けておこう。」


照れを疑う隙もない屈託のない笑みを浮かべる恋中。

普段から深読みをしているせいか、担当編集のどストレートの告白にまさかの気づかないのであった。


そんな、なんでも恋愛に昇華する小説家と、なぜか彼女を落とせない担当編集の、ツッコミ不在のラブコメディがここに開幕。

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