君がそんな顔をしたから、今日はスクランブルエッグ記念日
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
卵焼きを焼きたかっただけ
クラスメート達との談話中のこと。
料理自慢をする子がいて、じゃあ男どもで手料理を作って貰ったことがあるやつはどのくらいいるかと話題が転がった。
そこで彼がこう言い放つ。
「
きっと、というのがイヤだ。
なんだか期待されているようで。
あたしは、一度も彼に手料理を振る舞ったことなどない。
なのに彼は大丈夫だとか確信している。
これに愛すべきクラスの馬鹿どもが同意した。
引くに引けない雰囲気。
……そういうわけで、いまあたしは、レシピを検索している。
卵焼きの作り方ぐらい知っていた。
卵を割って、焼けばいいのだ。
しかし、ならば目玉焼きと何が違うのだろうかという抜本的な疑問。
これでも成績優秀者である。
だから、作り方さえ解れば万事上手くいくだろうと考えたのだが……それは大きな間違いだった。
調味料? 混ぜる? ネギ? だし巻き?
ちんぷんかんぷんだが、まあいい。
とりあえず作ってみるか……
今日まで、包丁を握ることは両親から固く禁じられてきた。
彼らの判断が正しかったと証明されたときには、キッチンに屍の山が積み重なっていた。
これでは卵焼きと呼べない。
スクランブルエッグだ。
深呼吸。
両の頬を強く叩く。
大失敗?
それがなんだ。
あたしは優秀だが、天才じゃない。今日の地位まで、努力だけで登り詰めてきた。
だから次の卵へと手を伸ばす。
殻を破るために、何度でも。
何度でも。
「うん、やっぱり由仁さんの卵焼きは美味しいね。見栄を張ってよかった」
翌日のお昼。
あたしの机に自分の机をくっつけて、彼は完成した卵焼きを一囓り、ふんわりと微笑んだ。
胸を張ってやろうと思っていたのに、そこで情緒がぐちゃぐちゃになる。
期待ではなかった。
信頼だったのだ。
あたしは、自分のお弁当箱一杯に詰まっている
とてつもなく甘くて。
きっと、にやけた口元を隠せなかった。
君がそんな顔をしたから、今日はスクランブルエッグ記念日 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
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