03:ぐちゃぐちゃドライビング
矢木羽研(やきうけん)
テーマ「ぐちゃぐちゃ」
「やられたなぁ」
渋滞を避けて裏道に進んだのがまずかった。未舗装の道は前日の雨でぐちゃぐちゃにぬかるんでおり、さすがにスタックして動けなくなるという事態には陥らなかったものの、愛車の足回りは泥だらけになってしまった。せっかくの気持ちいいドライブも台無しである。
まあ、どうせ給油するつもりだった。ついでに洗車すればいいだけの話だ。僕はナビで検索した最寄りのガソリンスタンドへと車を走らせることにした。ちょうど、会員カードを持っている店が近くにあったのが幸いだ。
*
「お客さん、タイヤがパンクしてますよ」
給油後、空気圧の点検を頼んだら店員にそう言われた。サイドウォールに傷が付いて膨らんでいる。これは交換しないと駄目なやつだ。在庫があったのでその場ですぐ対応してもらったものの、工賃込みで18000円を取られてしまった。かなり割高であるが背に腹は代えられない。値段交渉したら洗車代をおまけしてくれたので、まあ良しとするか。
予想外の出費で頭がぐちゃぐちゃになってきたのだが、これは空腹のせいもあるだろう。時刻は既に昼を過ぎたが、朝にパンを一つ食べたきりで、さすがに腹が減ってきたころだ。近くのファミリーレストランで北海道フェアの垂れ幕を見つけたので、そこに入ることにする。
*
休日の家族連れで混雑していることを覚悟したのだが、すんなりと席に案内された。スペシャルメニューから「北海道コーンとチーズのクリームソースパスタ」を、ドリンク・ミニサラダとのセットで注文する。麺は平打ちのフェットチーネかタリアテッレのようだ(もっとも僕にこの2つの区別はつかないんだけれど)。自宅で作る場合はゆで時間が長めのパスタは敬遠しがちなので、外だとつい注文したくなってしまう。
運ばれてきたパスタを、さっそくフォークで絡め取る。太めの平打ちには慣れていないので、スプーンと併用しながらぐちゃぐちゃと不格好な形になるが、僕のことを見ている人なんていないので気にせず口に運ぶ。コーンクリームの優しい甘味が広がる。サラダにはつんとした香りの山わさびドレッシングがかかっており、まろやかなクリームソースとのギャップが舌を楽しませてくれる。
*
「ごちそうさまでした」
レジの店員にあいさつをして支払いを済ませ、店を後にする。ドリンクバーのハスカップジュースとガラナスカッシュで心のガソリンはすっかり満タンになった。
「今度は本場で食べたいな」
僕は助手席の相棒――先ほどリサイクルショップで買ってきた、トウモロコシを抱いた狐のぬいぐるみ――をそっと撫でながら、再び車を走らせるのであった。
03:ぐちゃぐちゃドライビング 矢木羽研(やきうけん) @yakiuken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます