現代冒険者高校生番外編 ぬいぐるみ

葉山 宗次郎

第1話

ぬいぐるみ


 異世界との繋がった門をきっかけに始まった新門戦争。戦争が終わったあとの日本。

 復員兵で今は高校生をやっているダイナは、門の近くに作られた町、新門市の高校へ向かおうとしていた。


「きゃー」


 だが悲鳴を聞いて日常は一変した。

 すぐにダイナは高校生から冒険者へ意識を切り替え悲鳴の元へ駆け寄ると人間大の熊のぬいぐるみが暴れていた。

 近くにいた大人を殴って吹き飛ばし出せるの怪我人が出ていた


「うわーん クマさん」


 持ち主でああろう年小さい女の子が狼狽える親にあやされながら泣いている。

 だが、自分の娘のぬいぐるみが突然巨大化するという事態に驚き、狼狽えており、逃げることさえ思いつかないようだ。


「こっちへ」


 なのでダイナは物陰に二人を誘導して尋ねた。


「どうしてこんなことになったの?」


 女の子は答えてくれない。と当然知らない人に尋ねられたのだから無理も無い。

 仕方なくダイナは母親に尋ねる。


「何があったんですか」


 安全な場所に連れてこられて落ち着いたのか母親は答えてくれた。


「……突然子供が持っていたぬいぐるみが動き出して大きくなって暴れ始めたんです」


 信じて貰えないと思いながらも母親はありのままを話した。だがダイナは信じた。

 クマをよく見ると背中のあたりがかすかに赤く輝いていた


「貴方が作って子供に渡したぬいぐるみですか?」

「は、はい」

「何かぬいぐるみの中に入れましたか」

「詰め物の綿だけですけど」


 嘘は言ってそうになかった。だから女の子の方を見て聞いた。


「ぬいぐるみの中に何か入れた?」


 ダイナに尋ねられて女の子は俯いて黙り込んだ。何か入れたようだ。


「怒らないから教えて」

「……公園で拾った綺麗な石を背中に入れた」


 多分魔石だ。

 魔石は魔獣のコアであり、種類によっては寄生して動物などを魔獣にする。

 厄介なことに物にでも寄生して魔物化することがある。

 ぬいぐるみの中に入って魔物化したようだ。


「皆さん逃げてください!」


 そのとき警察官がやってきて住民を避難させつつ、ぬいぐるみに近づく。


「そこの着ぐるみ! 止まれ!」


 いや着ぐるみを着た犯人だと思っているようだ。

 しかし、逃げ遅れた一人が吹き飛ばされたのを見て、ただ事ではないと理解した。


「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」


 ぬいぐるみが自分達に近付いてきたため、警官は上空に向けて一発発砲する。それでもぬいぐるみが近づいてくる


「仕方ない。撃つぞ!」


 警官はぬいぐるみに向けて拳銃を構えた。


「ちょっと待った」


 ダイナが止める間もなく警官は発砲した。しかし銃弾はぬいぐるみを貫けず表面などにあたると銃弾が止まりポトンと地面に落ちてしまった。


「なぜだ! うわっ」


 予想外の光景に警官が唖然としているとぬいぐるみが近づいてきた。そして警官を殴って吹き飛ばした。


「ありゃ、ケプラー繊維だな」


 布の色合いとテカリ具合普通のものではなかった。

 だがダイナには見覚えがあった。

 防弾に使うケプラー繊維。防弾防火に使える非常に強いなやつだ。

 ダイナは女の子の母親に尋ねる。


「あのぬいぐるみの布どこで手に入れました?」

「スーパーのバーゲンで安売りしていたので買いました」

「最近値崩れしてるからなー」


 ケプラー繊維は防弾チョッキなどに使われる。戦争で一時的に防弾チョッキや防刃チョッキに使われたため大量に生産された。

 しかし戦争が終わると需要が減った為余ってしまった。その一部が市場に流れてバーゲンで売られていたようだ


「やっかいなものが生まれたなぁ」


 ダイナは溜息を吐く。


「ここは任せて逃げてください」


 ダイナは親子を逃がす。

 入れ替わるように一人の若者、二十代くらいの男性gあぬいぐるみに駆け寄る。


「このぬいぐるみの魔物め! 倒してやる!」


 といって男が何かをばらまいた匂いからしてガソリンだ。


「よしておけ」


 何をするか分かったダイナは止めた。

 だが冒険者は効かず火のついた発煙筒をぬいぐるみに投げつけたぬいぐるみの足元のガソリンに引火し盛大な炎を上げる


「布だからな。ガソリンが染み込んで燃えてしまえ」


 冒険者は高笑いするが、ぬいぐるみは全く効いていないし、燃えてもいない。


「何で燃えないんだよ」


 ぬいぐるみは驚いたまま呆然とする冒険者に近づいてぶん殴った。


「ケプラーは普通撥水加工されてるよ」


 ダイナは呆れながら伸びている冒険者につぶやいた。

 常に強いケプラー繊維だが濡れると強度が落ちてしまう。なので表面に撥水加工がされていることが多い。良質なものだとフッ素加工が施されていてガソリンさえ撥水してしまう。布にしみこむことはない。

 そんなことも知らないとは駆け出しの冒険者のようだ。


「さて、とりあえず倒すしかないか」


 ダイナは伸びている警官に近づき拳銃を借用する弾が入ってることを確認しぬいぐるみの背後に近づいてジャックを狙って発砲した。

 いくら強固なケプラー繊維でも詰め物を入れるチャックまでケプラー繊維ではできていない。そこだけは通常の金属だ。ダイナが放った銃弾の衝撃を受けて簡単に破れ内部の綿が見える。

 ダイナの攻撃に気がついて、ぬいぐるみが突進してくるがダイナは避けて冒険者のもとに近づく。

 そして残ったガソリンを奪うと破れたチャックの中にガソリンを流し込んだ。


「あばよ」


 最後に発煙筒を着火してぬいぐるみの中に突っ込んだ。

 流石に内部の詰め物のわたにガソリンを入れ点火しては炎上する


「グワァー」


 ぬいぐるみが悲鳴をあげて暴れるがやがて中の綿が燃え尽き地面に倒れた

 動かなくなったのを確認してダイナはぬいぐるみ近づけ燃え尽きた灰の中から輝く魔石を見つけ出して回収した。


「これで大丈夫だな」


 とりあえず大きな被害が出なかったことと危険な魔石を回収したことに安堵した。

 しかし女の子がぐずっているどうしようかと思ってイルとダイナは鞄から小さなぬいぐるみを取り出し女の子に渡した。


「これは僕の大事な人からもらったお守りなんだ悪いことがあっても。今回悲しいことになっちゃったけれどこのぬいぐるみで代わりにして」

「……うん」


 女の子は不満のようだったがダイナのぬいぐるみを受け取って頷いた。




「事件の経過は分かったわ」


 現場にやってきたアイリに事情を説明して魔石を渡す。

 彼女は自衛隊の所属だが。警察はこのような事態に慣れていないので代わりに出てくることが多い。それに要領を得ない、魔物を知らない警官よりまともに話を聞いてくれるのがありがたい


「でその子にぬいぐるみを渡しちゃったの」

「何か問題でもあったの?」

「あれは確か妖精族の姫様からもらったものでしょう。色々と加護を与えていたから一緒のマジックアイテムになっていない?」

「……大丈夫だと思うけど。特に加護とかは感じていなかったから」


 ダイナは目をそらしながらアイリに答えた。




 数日後誘拐未遂事件が発生した。

 ただ連れ去ろうとした男三人の犯人たちは何もボッコボコにされていた。

 女の子の話によると男たちが連れ去ろうとすると持っていたぬいぐるみが巨大化し犯人たちを殴り飛ばしたとのことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代冒険者高校生番外編 ぬいぐるみ 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ