結ぐるみ
雨宮 苺香
- Episode -
なん、で。
朝学校に行くと、とあるクラスメイトのスクールバッグに俺が好きなキャラクターがぶら下げられていた。
しかも限定版のミニマスコット。ファンでもなかなか手に入れられない、それこそ俺は当選しなかった超レアな小さなぬいぐるみだ。
なんでお前なんかに。
てか学校につけてくるなよ、汚れるだろ?
なんて、心の中で散々きらいな彼女のことをボロクソに言う俺は朝からため息が止まらなかった。
今日もヘラヘラしやがって。
そんな彼女を、本心で何を考えているか分からない彼女のことを、俺は〝気味が悪い〟と片付けていた。
そう判断したのは春。みんなが仲良くしようとする季節に俺が彼女に話しかけたことがあった。
でも彼女は変わらない笑顔で、俺の話に頷いてばかり。
それこそ話に蓋をされるような、俺らの間に壁を作られるような感覚がして、それ以来彼女に話しかけることすらやめてしまった。
きっと分かり合えないんだって。
そんな彼女が今、友達と会話が終わった途端、一瞬虚ろな目を見せる。
心を閉ざしているような彼女のそんな顔を見るのは初めてで、本心が隠れ見えた気がして俺は気づけば話しかけていた。
「あの、さ」
何を話そうかなんて考えてなくて、俺は後頭部を掻きながら言葉を探す。
「お前もそれ好きなの?」
マスコットを指さしてそういうと彼女はニコッと笑った。
「うん! 昨日届いたの! 可愛いでしょ?」
「おう。俺も抽選応募してたけど外れた」
「え!? 好きなの?」
目をきらきらさせる彼女を見て、こんなにわかりやすい子なんだと実感すると、今までのイメージがぶっ壊された。
「うん、好きだよ」
「そうなんだ! じゃあこれ、あげるよ!」
バッグからマスコットを取り外す彼女に正気か? と思うと同時に「そんな貴重なもの貰えないから」と断りを入れていた。
ばかだ、貰えるなら貰っとけばよかったのに。
「そっか〜。じゃあ今度一緒にコラボカフェ行こ!」
まさかの提案に「行きたい」と素直に答えてしまったのは彼女の作る本物の明るい雰囲気に飲み込まれたからかもしれない。
──話しかけてよかった。俺は隣で笑う彼女を見てそう思う。
そして俺らの本物の繋がりが芽生えたことを、これから同じ時間を過ごす度に感じれたらいいなって。
-END-
結ぐるみ 雨宮 苺香 @ichika__ama
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