縫い包みの腸

今福シノ

真夜中の出来事

「ええー、今日はくま吉といっしょに寝れないのー?」

「しょうがないでしょ、おなかが破れて綿が出てきちゃってるんだから」


 おかあさんがくま吉を取り上げるので、私はほっぺたをふくらませる。


有理紗ありさももう3年生なんだから、ひとりで眠れるようにならなくちゃ」

「そ、そんなことないってば。くま吉がさみしがるからだもん」

「わかったわかった。くま吉は直しておくから、もう寝なさい」

「はーい……」


 しぶしぶうなずくと、おかあさんはくま吉の茶色い身体をなでて、


「買ってあげてまだ2日なんだから、もう少し大事にしなさいよ?」

「大事にしてるよ。知らない間にやぶけちゃったの」

「はいはい。前のくま太郎みたいに長い間一緒にいられるようにしなさいね?」

「わかってるってば。じゃーおやすみ」


 私は部屋のドアを閉めてベッドに入る。目を閉じるけど、いつも枕もとにあるぬいぐるみがないと変な感じがして気になってしまう。


 だけど、気がついたら私の頭はぼんやりとしていて。


 どれくらい経っただろうか、私が目を開けると、


「くま……吉?」


 枕もとにはくまのぬいぐるみがあった。

 おかあさんいつの間に、


「ひどいなあ。ボクをあんなのと間違えるなんて」

「えっ……え?」


 声? くま吉から?

 いや、よく見るとくま吉じゃない。このかすれた茶色。もしかして、


「くま太郎……?」

「やあ有理紗、久しぶり」


 古くなって捨てたはずなのに……どうして? するとくま太郎は「よいしょ」と動いてふとんをめくり、私の上に乗る。


「悲しいなあ。ずっと一緒だったのに簡単に捨てちゃうんだもん」

「それは」

「あ。そういえばボク、ずっと気になってたことがあったんだ」


 くま太郎は右手をあげる。するどいなにかがギラリ、と光って。


「ボクらの中には白い綿がつまってるけど、君らの中には一体何が入ってるのか、ってね」


 直後、右手が振り下ろされる。


 そこから先は、なにも覚えていない。

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縫い包みの腸 今福シノ @Shinoimafuku

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