封印された何か

石嶋ユウ

封印された何か

 目の前にぬいぐるみが一つ落ちていた。学校からの帰り道、まーくんに振られた日のことだった。

「ああ、誰かが落としたんだろうなぁ」

 そのぬいぐるみは熊の形をしていた。首には綺麗な宝石のようなアクセサリーを身につけている。私はなんとなく、その宝石に触れた。


 その時だった。

「そのぬいぐるみを返せ……」

 私の背後から声がした。聞き覚えのある声だ。振り返ると、いつもと雰囲気の違うまーくんがいた。

「まーくん、どうしたの?」

「まーくん? 誰だ? ああ、この体のことか。まーくんはもういない。私が魂を食ったからな。さあ、お前も魂を食われたくなかったら、大人しくそのぬいぐるみを渡せ」

 まーくんの腕からは何かよくわからない鋭利な刃物が生えていた。それを見た瞬間、私は本当にまーくんがいなくなってしまったのだと理解した。ああ、まーくん……。


 私は死を覚悟した。死がすぐに訪れるなら、このぬいぐるみにキスでもしてやろうと思った。本当はまーくんとしたかったのに。全力でぬいぐるみにキスをする。

「おい、よせ、やめろ! それは封印を解くための……」

 封印? なんだそれ。そう思った途端、ぬいぐるみが光り始めた。やがて、ぬいぐるみは人型になり、スーツ姿のかっこいいイケメンになった。思わぬ形で男の人とファーストキスをすることになってしまった。これは恥ずかしい……。

「ああ、すみません!」

「良いんだ。おかげで長い封印が解けた」

 そのイケメンは私にどこからか出した花束を差し出した。私はそれを受け取る。


「お前……」

 まーくんを乗っ取った何かは慌てた様子だった。

「やあ、久しぶりだね悪魔。お前、よくも現代人の魂食べて体を乗っ取ったな。直ちに倒す」

「待ってくれ! 俺は、俺はただ命じられただけで……」

「ああ、知ってるとも。だからさよなら。グッドバイ!」

 イケメンは魔法のような力を使ってまーくんを眠らせた。その場に倒れるまーくん。私は彼のそばまで駆け寄った。

「まーくんは無事なの?」

「まあ、魔法の力でなんとかした。あとで起きるだろう」

「よかった……」

 ほっとした。まーくんが生き返った。でも、問題は……。


「ねえ、あなたって何者なの?」

 問題は目の前のイケメンである。

「俺か? 俺は天からの使いだよ。君は今日から俺の主人だ」

「主人? 主人? えっ、ええええ!」


 こうして、私は天からの使いであるイケメンの主人となり、悪魔たちとの戦いの日々が始まったのだった……。

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封印された何か 石嶋ユウ @Yu_Ishizima

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