いまから一緒にどうですか？

新緑の季節

　吹き抜ける新緑の匂い。

　空から降りそそぐあたたかい光。

　心も体も、綺麗になる気がする。

　ご主人様と一緒に旅ができるってとっても楽しい。

　最近は、一人キャンプにハマり始めたみたいで、いそいそと準備してる。

　テキパキとテント張って、手際がいい。

　家の中じゃダラダラしてる姿しか見せないけど、こういう所を見ると、ちゃんとした人なんだなって思う。

　テント立て終わったみたいだ。

　次は知ってるよ。

　僕を持ち上げて、そうそう。

　僕専用の椅子に座らせてくれるんだ。

　この椅子いいんだよなー。

　おっと、僕がダラけて姿勢を崩してはいけない。

　ご主人様にカメラ目線でこたえて。

　うん。

　バッチリ！

　ご主人様のインスタ、フォロワー数少ないから僕も顔出ししても問題ないんだー。

　気合い入れるのはここまでで。

　この後は、家と変わらずダラダラし始めるんだよね。

　もうちょっと、ちゃんとした所をアピールすれば彼氏くらい出来ると思うんだけどなー。

　僕も人の事言えないけど。

　新緑の風が吹き抜け、僕の体を浮かび上がらせた。

　ちょっと、大変だ！　‌ご主人様ー！　‌僕飛ばされてるよーー！

　テントの中で動画鑑賞してないでー！

　ああーーー……。

　……大変だ。

　森の方まで飛んできたみたい。

　……あれ？　‌誰だ？　‌僕の体を持ち上げるのは。

　……男の人だ。

　捕まっちゃった。

　ご主人様助けて……。

　僕を連れてどこへ行くんだろ……。

「すいません、このぬいぐるみ風で飛ばされてましたよ」

「……え、あ、ありがとうございます」

　ご主人様のところに戻って来れた！

「個性的で可愛いぬいぐるみですね」

「……え、そ、そうですか」

　僕を個性的って褒める人はなかなかいないのに。

　ご主人様の趣味全開の奇抜な着せ替えをされて。

　今日は全身緑色。

「僕も、この子連れてきてるんですよ」

「……可愛い」

　可愛い！このお兄さんも可愛いぬいぐるみをキャンプに連れてきてる！

　イカす衣装着てる！

「一緒に写真でも撮らないですか？」

「……え、あ、え？　‌メイクも何にも……」

「このぬいぐるみ可愛いんで、一緒に並べて写真とりたいなって」

「あ……、この子を撮る。は、はい、どうぞ」

　手際がいいな、このお兄さん。

　ぬいぐるみの扱いも上手い。

　隣に女の子も並べてくれて。

　どうも、よろしくお願いします。

　可愛い服着てるね。

「センスいいですね、この衣装」

「あ、ありがとうございます」

「僕も衣装作ってみてるんですけど、なかなか難しくて、どうやって作ってるんですか？　‌この部分とか特に細かく縫ってますよね」

「あ！　‌わかりますか！　‌そうなんですよ、この部分ですね――」

　これは、ご主人様のスイッチを押してしまったみたいだ。

　人見知りでも自分の好きなことになると、早口で話し始めて。

　けど、お兄さんもニコニコ楽しそうに聞いてる。

　なんか、2人とも良い雰囲気だ。

　新緑の風の中、あたたかい光に包まれて、恋の花が芽吹き始めたのかもしれない。