あなたと会えてよかった。
涼
あなたの元を離れる時
寂しいね。
でも、仕方ないね。
私、あなたに逢えて、良かったよ。
最後だから、ぎゅっとして。
最後だから、一緒に寝て。
あなたも、大人になったのね。
大丈夫。あなたが大丈夫なのなら、大丈夫。
あなたに初めて抱っこされたとき、
私、どんなに温かかったか…。
あなたは?温かかった?
私、知らなかったの。
大人になると、私たちのような『ぬいぐるみ』という存在が、
必要なくなるなんて…。
たくさん遊んだね。
「くーちゃん」
それが、あなたが付けてくれた私の名前。
いつしか、呼ばれなくなりました。
いつも、机の片隅で、埃をかぶるようになりました。
「今日から旅行なんだから、ぬいぐるみは置いて行きなさい!」
「いやー!!くーちゃんも一緒にいくのー!!」
そう言って、そのまま、私まで、遠くに連れて行ってくれましたね。
今となれば、良い想い出です。とても、とても、楽しかったですよ。
あぁそうだ。こういうのはどうでしょう?記念写真と言うのは。
でも、私は口がきけません。その提案も、どう伝えれば良いのか…。
「くーちゃん、きょうはカレーですよー。あーん。おいしですかぁ?」
えぇ、なんともおいしかったですよ。
カレーだけではありません。お寿司も、ラーメンも、ピザも、
どれもこれも、本当においしかったですよ。
プラスチックでしたがね。
でも、あなたがせっせと口に運んでくれて…。
あぁ、それらも、もう何処かに行ってしまった模様。
私は、長生きした方でしょうか?
えぇ、わかってます。あなたが、どんなに私をたいせつにしてくれたかを。
それでも、ぬいぐるみは人と違って、成長しません。
大きくなったりしません。漢字も覚えられません。
数式を解くときなどは、邪魔になったりしましたね。
机の上から弾かれて、ベッドへダイヴ…したことも…。
明日、私は燃やされます。
だから、今夜はぎゅっとして。
一緒に良い夢を、見て眠りましょう。
ぎゅっと、して。
あなたと会えてよかった。 涼 @m-amiya
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