第11話 その後の私の不幸な人生 ※ジェラルド視点

「……また、私の求める情報は無し、か」


 私は今、王都から送られてくる情報を確認するだけの日々を送っていた。調査した結果は、2人の幸せそうな暮らしの日々が綴られるだけ。私が求めている、逆転するための致命的な何かを掴むことは出来なかった。


 幸せな結婚をして、仕事も順調で認められている。家庭にも問題は見当たらない。何不自由ない生活を送っているようだ。今の自分と比べてみたら、虚しくなるほどの差があった。


 私は、大きな間違いを犯しているのではないか。いやでも、信じるべきじゃない。女という生き物を信用して、私は失敗してきた。必ず、裏があるに違いない。自分にそう言い聞かせて、情報を探り続けるだけの日々を過ごす。




 あれから数年が過ぎた。彼女に子供が生まれたらしい。とても元気に育っている。今も変わらず、幸せそうに暮らしているという。2人の間に、問題は起きていない。起きる気配も一切ない。


「……はぁ」


 私は、深いため息をつく。今も続けている情報収集で、彼女達の人生を確認し続けてきた。もう何年も、同じことを繰り返している。


 進展することもなく、ただ時間だけが過ぎていく。


 今日も成果なし。いつものように、彼女の日常を確認していただけだ。幸せそうな光景を想像して、自分の気持ちが落ち込んでいくのを感じる。


 やはり私は、間違っていたんだ。それに比べて私は、一人で寂しく暮らしている。元王太子、元王族であったはずの自分が悲惨な暮らしを続けている。今後、この人生が好転する可能性は皆無だろう。


 何年もかけて、ようやく認めることが出来た。その瞬間、私は生きる意味を失ってしまった。


 部下に命じて、とある薬を手に入れた。これを使えば、苦しむことなく終わらせることが出来るらしい。




 どこで間違ってしまったのか。今はもう、分からない。


「間違わなければ、今も彼女と一緒に居られたのだろうか……?」


 今とは全く別の人生を歩んでいた可能性を想像して、私は少しだけ笑みを浮かべた。そして、手に持っている小瓶を見つめる。


「ふっ……」


 私にはもう何も残っていない。ならば、この手で全てを終わらせようじゃないか。そう決意した私は、小瓶に入っている液体を飲み干すことにした。


「ぐぅ!?」


 それを飲み込んだ瞬間、全身に激痛が走る。エレオノールの顔が浮かんでは消えていく。薄れゆく意識の中で、私は彼女のことを思い出していた。私が死んでしまったことを知れば、彼女はどう思うだろうか。悲しんでくれるだろうか。


 それが、私の最期の瞬間だった。



***



 それから、彼は病死として処理された。元王太子でありながら、王国の歴史に名を残すことなく死んでいった。だが、彼の死に疑問を持つ者は一人もいなかった。彼の死を悲しむ者もいない。ただひっそりと、彼の存在は消えていくだけだった。

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女性不信に陥った王子に婚約破棄を告げられた私は、新たな関係を大切にする キョウキョウ @kyoukyou

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