脱いぐる身

くまの香

脱いぐる身(ぬいぐるみ)

ドカンッッ!

深夜、凄い音で目が覚めた。

何?何?何の音?

慌てて窓を開けても外は暗いまま街はシーンとしている。

スマホでニュースを見ても何も上がっていなかった。

お母さんもお兄ちゃんも起きてこない……、夢だった?


翌朝、うちの庭の芝がめり込んだ中心に長さ20センチくらいの白い筒が落ちていた。

プラスチックのような、陶器のような白い筒。

何だこれ?これが昨日の夜中に空から降ってきたの?

「誰かがうちの庭に投げ込んだんじゃないの?」

お母さん達は興味がないみたい。


学校から帰ったら白い筒はもう無くなってた。

「ゴミに出したわよ」

さっさと捨てたらしい。


そんな事も忘れしばらく経ったある日、うちのリビングに白い猫がいた。

お母さんに聞いたら知り合いから貰ったからうちで飼うんだって。

お母さんとお兄ちゃんには懐いているのに、私には触らせてくれない。

私を見るとツンと顔を上げてするりと逃げてしまう。


ある日ソファーで転がっていたら近くに寄ってきて私の匂いを嗅いでいる。

チャンス!

私はガバリと猫を抱き抱えワシワシと撫でくりまわした。

ん?首の後ろに金属の摘み…首輪の金具?

首輪は…してないよね? 何この金属…まるでファスナーのツマミみたい。

チチ、チーーー、え!ファスナー?


ね、ね、猫の背中にファスナーがある?

そんなバカなと思いつつ私の指はファスナーを引き続けた。

首から尻尾まで。


開いた猫の背中から、おじさんが出てきた。

15センチくらいの銀色のおじさん。

おじさんが出た後の抜け殻を抱えて固まっているとお母さんとお兄ちゃんがリビングに入ってきた。

ホッとしたのも束の間、私と小さいおじさんを見た母が後ろを向いて服を脱ぎ出した。

兄も。

私に背を向けたふたりの背中には首からお尻の上まで大きな傷の縫い目があった。

お父さんが死んだあの事故で負った傷跡。

その傷跡がメリメリと裂けていき銀色の小さい頭が出てくる。

私は衝撃と恐怖で目が離せなかった。

身体から小さいおじさんが完全に出るとお母さんとお兄ちゃんはシュワワワと泡になって消えていった。


銀色の3人のおじさんはリビングから庭に出ると庭の土がボッコリと持ち上がり、お母さんが捨てたと言ったあの白い筒が出てきた。

3人が筒に触ると吸い込まれる様に消え、筒は浮かび上がって空の彼方へと消えて行った。

私はずっと腰を抜かしたままだった。


後日、仏壇のお父さんの写真の裏から手紙が見つかった。

父、母、兄の乗った車に彼らの乗り物が衝突した事、父は即死だったけど母と兄はギリギリ死ぬ前で彼らが合成出来た事、しかし限度が近づいている事が書いてあった。


誰もいないキッチンをぼんやりと見る。

中身が何でもよかったからずっと居てほしかった。

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脱いぐる身 くまの香 @papapoo

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