マリとマリン 2in1 邂逅

@tumarun

第1話 みつけちぃった

「翔、アルバイトしない?」


 麻琳は、とある街中を歩いている。1人ではない。少し離れて翔が後をついて歩いている。道の左右は一戸建てが多い、稀にアパートが見られる。とある理由で茉琳は、ここの医大の附属病院へ診察を受けにきた。懇願し現金で説得させて同行させた翔の地元であったりする。


「駅前はテナントとかあったけど、この辺は寂しいねえ。人と会わないよう」

「住宅地だからね。街の中心部から離れたらこんなものだよ」

「翔と……はこういう処にすんでるんだぁ」

「お前が来たいっていうから連れてきたんだ。文句は言いっこなし」

「じゃあさぁ、翔ん家どの辺り? 行ってみたいな」

「はっ、何言ってんの。そんなの見てもしょうがないだろ」


 茉琳は振り返り、後ろから歩いてくる翔の前に唯づむ。指先を翔の胸でもじもじと輪を書き、


「ダメ?」


 上目遣いでお願いしてみる。


 (本当の目的は違うけどね)


「スポンサーのリクエストは断れません。つまんないぞ、ただの一軒家だから」

「いいの、いいの行こ!」


 茉琳は翔の背中に回り前に押し出す。


「押すなよ。俺の家の場所知らないだろ。って方向は合ってる。お前、この街を知ってるのか?」

「知らなーい。なんとなーく」


 (知ってるも何も)


「だから押すなって」


 と言いつつ、翔は立ち止まった。古いアパートの前で2階のとある窓を見ている。つられて茉琳も見上げる。


 (私が住んでいたアパート)


 窓にカーテンがかかっていない。ガラス越しに天井が見える。


「何、見てる?」

「空き家になってて驚いてる。知ってた人が住んでたんだよ」


(私も驚いた。居場所がなくなり、居た場所までなくなってしまった)


「同級生だったんだ」


 (そう、私)


「引越しかなぁ」

「いや、もう亡くなってる」


(そう)


「ごめんねぇ、私、知らなくて」


(知ってるも何も、あなたの中でお話ししてるよ)


「お母さんがいたはずなんだけどなぁ」


 (縁の薄い人だけどね、あーぁ何もこの世に無くなっちゃったあ。いつも愚痴をぶつけていた縫いぐるみも無くなったよね。ショウショウと名をつけたパンダの縫いぐるみ。今日の出来事、給食の献立、嬉しかったこと、悲しかったこと、そして翔のこと、聞いてもらっていたのに。病室にも置けなかった)


 居心地悪そうにキョロキョロと周りを見ていた茉琳は、何かを見つけたのか注視している。そして見ている先に駆け寄って行った。


「何に向かって走ってるの、転んだら危ないよ。そっちはゴミ置き場だって」


 茉琳はゴミ置き場からビニールが絡まったものを持ち上げた。翔も駆け寄ってみてみる。


「燃えないゴミは決まった袋に入らないと回収しないからね。大きすぎて入らなかったんだ。何かな?」


 バリバリと絡まったものを解いて外していく。大きい頭、太い胴体、先の丸く太い手足。

 泥がついて茶色に変色している。


「なんか、縫いぐるみっぽい、熊かなぁ? でも、下膨れの顔つきは、パンダ?」

「ショウショウ!」

「えっ? 熊? パンダ? シュウシュ?」


 茉琳は縫いぐるみを抱きしめた。雨も降ったであろう、吸っていた水気が服にしみていつた。汚れも服に移っていく。


「おい、汚いよ。あーぁ水気が移ってるし」


 (私のお気にがグシャグシャのドロドロ! 泣いていい)


「いーの。このままで良いの」


 結局、翔は連れて行きたくなかった茉琳を実家に連れていく羽目になってしまった。


 翔の家の玄関で


「まあまあ」翔、母(翔が女の子連れてきた!)

「まあまあ」翔、母(染めた金髪が剥げかけているヤンキー?)


 そこで茉琳は深いお辞儀をして、


「お母様、大変お恥ずかしい話で誠に申し上げませんが水場をお借りできませんでしょうか?」

「まあまあ」翔、母(どごぞのお嬢様みたいな話し方ですわね)

「えっ、これ誰?」

「わったしだもーん。少し前までお嬢様してました」

「「 (えぇ) 」」


 ぬいぐるみは結局、茉琳の知り合いの業者でクリーニングと修理を行った。そして茉琳の枕元に座っている。

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