第2話

「お姉ちゃんさぁ、ちょっと課金し過ぎじゃない?」


 これは妹だ。わざわざ黒に近いダークブラウンに髪を染めて、お高いデパコスで流行りの地味メークをばっちり決めて、ナチュラルウェーブに見えるように月イチでパーマをあてる、17歳の女子高生。最近はネイルサロン通いまで始めたらしい。


 お前にだけは言われたくない、とつい思ってしまったわ。


 昼下がりの首都トウキョー。お洒落タウンのお洒落スポットで、お茶と称してお一人1600円もするパンケーキセットを食べていて、妹のはドリンクが期間限定のラテだとかでさらに200円追加だ。二人分合わせたら余裕で10連回せるんですけど。


 そのフォークに突き刺したひとカケが、いったいお幾らくらいになるか解って言ってんのかとツッコミを入れたくなってしまう。


 確かこの間もした話題だわ、これ。


 やれ、いつか消えてしまうデータに何万も注ぎ込むだなんて無駄と思わないの、だとか。いくら貢いだところで推しと会えるわけでもないのに、だとか。推しだってどうせ他の人と結婚しちゃってお姉ちゃんと結ばれるわけじゃないんだよ、だとか。こんなトコに無駄遣いしてるから、いつまでたっても実家住みなんだよ、だとか。


 私も反論して言ってやったもんだった。


 あんたが化粧箱に溜め込んでるコスメ用品の総額と大差ないわ、だとか。月イチで行く美容院だのサロンだのも含めたら使うお金は同じになるでしょ、だとか。バイト代だけで足りなくてしょっちゅう私にたかってくるくせに、だとか。


 そしたら妹のヤツ、お父さんお母さんのことまで持ち出してきてさ、それでヒートアップした私も容赦なく反論してしまったのだ。


 やれ、お父さんの毎月の飲み代幾らか知ってんの、だとか。お母さんが行くご近所さんとのランチだってバカにならない、季節ごとで洋服代と靴代が入ってる、だとか。一つのご家庭が必要経費以外にどれだけの浪費をしているかを家族で誹り合うなんていう不毛そのものの会話に発展していって、ほんと地獄味だった。


 人が稼いだカネを使える範囲で使うくらい、自由にやらせろ!


 父による鶴の一声で家族会議は終了。なんだかすごく気まずい空気で解散になったのよね。ぜんぶあんたのせいなんだから。忘れくさってノホホンとスマホをいじってる妹に思い切りガンを飛ばすも、気付きすらしない。


 ギリ、20位圏内に残ることが出来て、喜びの舞を妹に披露したのが間違いだった。ものすごい競争率を勝ち抜いたんだもの、どうしても誰かと喜びを分かち合いたかったのよ。だけど手近なトコに居た妹で妥協してしまったのが悪かった。そして現在に至る。


「どうせ生きてく限りはどこかでおカネは使うんですよ。どこで使ったところで他人からみたら無駄遣いにしか見えないんだから、あんたも人にとやかく言われたくなきゃ言わないほうがいいよ。」


「私が言わなきゃ相手も言わないはずだなんて、お姉ちゃん考えが甘いなぁ。」


「いちいちムカつくんですけど。」


 どうせここの支払いも私が出すことになるんですよ。どうせね。妹は要領よく生きてきて、私はそうでもなかったから、これはいつもの通常、日常風景だ。なんだかんだ私も妹を甘やかしてきたのだから、言えた義理じゃない。


 

「お姉ちゃんのこと心配してるんだよ、お姉ちゃんのおサイフを。」


「うるさい。」


 私のおサイフをピンチに陥らせるのはだいたいが推しのカレではなくて、あんたなんだからね、金食い虫。




 終わり。


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沼らせ男に貢ぎ女~20万円の男~ 柿木まめ太 @greatmanta

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