沼らせ男に貢ぎ女~20万円の男~
柿木まめ太
第1話
「よく頑張ったね、」
そんな言葉が聞こえてきた。もちろん幻聴だ。でも私が私を褒めたっていいし、大好きなカレの声音で聞こえてきたって、誰にも迷惑は掛けていないはず。だって社会人だもの。
回しに回した10連ガチャはついに20回のゲージを振り切った。10枚ワンセットの連続ガチャは1回2500円。10連を、20回。合計で200枚のカードがカウントされると、オマケで一枚が、そう、好きなカードを選ぶことが出来るというボーナスステージに突入する。
そこで聞こえてきた推しカレの、神がかったボイス。
夢のような心持ちで、私は迷わずカレのカードを選ぶ。だって20回も連ガチャを回したのに、めくれていった中にはただの一度だってカレの姿はなかったもの。今回に限って出てきてくれない、イジワルだよ。
でも、ようやく……、ようやく一枚ゲット。
SSレアのカードでも正直、一枚じゃ役に立たない。ハイレベルな戦場においては。
推しカレ含むチーム五人を全員レベル4にまで上げきって、時間の許す限りプレイし続けるヘビー級ユーザーたちが熾烈なトップ争いを繰り広げているから。一位の最高得点はついに一千万ポイントの大台に乗ったわ。イベント開始二日目なのに。
やっぱり昨日に続いて今日も有給を取るべきだった。さすがに他のメンバーまで揃えるだけの金銭的余裕はないから、猛者たちに比べて手持ちのカードが心許ない分は対象イベントのプレイ回数でカバーしないと。……カバーできるかな……。
いいえ、皆、条件は同じ。いや、社会人じゃない子たちは時間の融通が利くから、その分をカバーするためにもカードの強化は必須よね。推しのカレだけが強くて、メンバーは微妙っていうんじゃ、とても勝負にならない。皆、命賭けてるから。
ゲームだけど遊びじゃない。
プライドと、愛の証と、推しを応援する強い意志!
私はゲームなんかしたことないんだから。ただの芸能人フリークで、アイドル推しで、だけどその推しが出るゲームと聞いたら、やるしかないでしょ。サービス開始前の事前登録は当たり前で、サービス開始の瞬間には準備万端で待っていたわよ。
推しがちゃんと集客するんだって証明出来れば、それはすなわちカレの次のお仕事に繋がるんだから。人を集められる、おカネを集められるタレントだと証明するの。
それが愛。だけど挫けそう。
今回、カレのカードは強い。でも層が分厚くて、なかなか順位が上がらない。皆、課金してるから。それはカレのタレントとしての価値に直結するから、勝負は厳しくなるけど、なんだか嬉しい。カレはこんなに人気なんだって解るから! 同志たち!
だけどやっぱり挫けそう。層が分厚くて、じわじわと順位が下がっていく。
皆、課金しすぎなんじゃないの!? 人気ありすぎでしょ! もう夜中の二時よ!?
くっ、ダメだ、仕事に差し支えるからもう寝ないと……でも。
どうしても今回のイベントは完走したい。ムリかも知れないけど、入賞もしたい。どんなに層が分厚くても、上位者のポイントが高くなっても、それでも食い込みたい。爪痕を残したい。だって推しのイベントだから。どうする? 貫徹する?
そうよ、明日のことは明日考えたらいいわ、やっぱり有給取っちゃおう。
今走らなくていつ走るの! 今しかないじゃない! これまでに貯めたすべての無償ダイヤを注ぎ込んで、有償ダイヤもつぎ込んで、今日という日に賭けたのよ!
課金総額20万、カレのカードが最強になった今、もう負ける気はしない。今回のカレはいつになくイジワルだったけど、けっきょく80連回して正規では一度も出てきてくれなかったけど、それはきっと他のメンバーを強化した方が勝利には近道だからよ。ほら、カードの中のカレもにっこりと笑ってる。
最強メンバーを携えて、今日は負ける気がしない。
推しのピックアップイベントだから! 絶対に負けない!
イベント期間は一週間、残りの有給は四日間。掴み取ったチャンスは最大限に活かす。旅行のフリしてイベント後半に賭けるわ。有給の分で走れるだけ走って、リードを広げて、あとはもう神頼みよ。明日の朝……どれだけ順位が落ちてるか……一抹の不安がよぎるけど、だけど四日間の貫徹できっと巻き返す。
十位内はもう絶望的、トップのポイントがブッチギリの二千万ポイントを超えた時点で諦めがついた。カレが推しじゃない他のプレイヤーがのんびり参加してるポイントが現在でせいぜい二万だもの、どれほど狂った数字なんだか。カレの人徳よね。
ああだけど、やっぱり二十位内には入りたい。せめて五十位。
推しのファン層が分厚すぎて泣きそう。
三時を告げる時計の
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