第33話 二人が恐れていたこと



「あそこになにかいる…!」

暗闇を指差しながら幸人がそう口にする。


…なんだ?何がいるんだ…?

そんな彼の背後から、その先の様子を確認する宏樹と秋葉。


三人が視線を向けた先にいた者は…。


ガッグォオンンンンッッ!!ゴゴゴゴゴゴ……!!!


「一体…なんだっ…!!」

突然、暗闇の先から大きな物音が聞こえてきて、場に鋭い緊張が走る。


そして…。


ゴゴゴゴゴゴガギンッッッ!!!

音の正体と思しき黒い物体が、三人の前に躍り出た。


それはなんと、展示車両として並んでいた「KV-1」だった。


「やっぱり動き出しやがったか…!」

先頭に立つ幸人がそう叫んだ。


「やっちまえ幸人!」

「ああ!!」

宏樹は後方に居るのをいいことに、幸人に全てを任せた。


そして幸人は英傑「Tiger」の主砲の照準を「KV-1」へと合わせた。


ッドドドッッゴゴゴンン!!!!

次の瞬間、Tigerの超強力な88mm砲が火を噴いた。


「くそ…!け、煙が邪魔で見えねぇ!!」

撃った本人である幸人が文句を言う。


砲撃した箇所が屋内のため、砲撃してからすぐに硝煙が三人を包んでしまい。

動き出したKV-1の状態が、わからなくなってしまった。


「まあ、KV-1ぐらい、Tigerの主砲で一撃だろ…」

そんな中で、宏樹は少し楽観的な見方を示していた。


その意見は至極真っ当だった。


Tigerに搭載されている主砲の88mm砲は、元々は高射砲として開発されたもの。

貫徹力に弾速に威力。その全てが一般的な戦車砲とは比較にならないほど良く、直撃すればまず助からない。


「だなぁ…今頃消し炭になってるだろうよ…」

そんな彼に続いて幸人の方も、既に敵を撃破したものとして見ていた。


だがしかし……


グエェェアアアアアアアアアア!!!!!

「っっ…!!??」

突如暗闇を包んでいる煙の先から、獣が発しているかのような呻き声が聞こえてきた。


さらに…


「なっ…なんだこの光…!!?」

幸人が謎の光を受けて困惑する。


なんと、視界を覆う煙を突き抜けて、赤黒く禍々しい光が視界に入ってきたのだ。


…こ、これはまさか…!!

その紅い光を同じく視認した宏樹は、その光の正体を知っていた。


その後、周囲の煙が少しずつ晴れていき、その見覚えある光の正体が姿を表した。


「やっぱりこいつか…!!」

その存在を認知した宏樹は、身構えるように言う。


「な、なんでこんなところに…!」

同じくその存在を確認した秋葉も、突然の登場に少し焦りを隠せないようだった。


三人が目にした謎の紅い光の正体。


それは、先ほど幸人が砲撃を喰らわせた「KV-1」で間違いなかった。

その証拠に、車体には88mm砲の砲撃によって空いた、大きな被弾孔が残っていたのだ。


ただ、一つ先ほどまでのそれとは違う点があった。


「な、なんなんだこいつは!履帯が燃えてる…!!」

幸人がKV-1の姿を見て言った。


そう、先ほどまでは怨魂だったはずの「KV-1」は、なぜか群蛛の姿へと変化していたのだ。


「二人とも!早くここを離れるよ!!」

秋葉が他の二人にそう告げる。


しかし、ここは倉庫展示場の中。


「宏樹くん!早く旋回して!!」

前か後ろにしか進めないため、どうしても移動にもたついてしまう。


そして…。


「くそ!とりあえず俺1発入れるぞ!!」

このままでは砲撃されてしまうと思った幸人は、ついに群蛛への攻撃へと踏み切る。


「幸人ダメ!まっt…」

砲撃をする直前で、秋葉が彼を止めようとしたが…。


ッダダッッドゴゴゴオオオンン!!!!

制止は間に合わず、幸人は「KV-1」に対し砲撃をしてしまった。


その砲撃により「KV-1」の砲塔は吹き飛び、車体からは大きな炎が立ち昇った。


「よっしゃ!二度目はねぇぜ!!」

痛快な撃破をとった幸人は、調子良く豪語する。


だが、彼が歓声を浴びることはなかった…。


「なにしてるの幸人!!!??」

「え…、な、なにがだ??」

なんの脈絡もなく秋葉に怒られた幸人は、頭にはてなマークを浮かべた。


さらに秋葉は、彼にこう言い放った。


「今の敵は群蛛だよ!?攻撃したらダメなの!!」

先ほど無神経な質問をされた時以上に、彼女は怒っていた。


「な、なんでだよ!?突っ立てたら撃たれちまうd……」

ただ、今回ばかりは幸人も引き下がろうとはしなかった。


無理もない。今の彼には自分の行動の何がダメだったのか、知る由もなかった。


「お、おい秋葉!なにしてんだ!」

幸人を非難した当の秋葉は、彼の反論には一切耳を貸そうとせず、急に倉庫の壁へと向かって走り出した。


…秋葉さん…??

彼女は、二人の少年らが見ている中、壁の倉庫を突き破って外へと出ていった。


そんな落ち着きのない彼女の姿を、少年二人はただただ眺めていた。


すると…。


「詳しい話は後!まずはここを離れないと!!!」

突き破った壁の端から、秋葉が顔を覗かせこちらに訴えかけてきた。


…詳しい話…?何か知っているのか…??


「なにをそんなに焦ってんだよ…。おい秋葉??」

そんな彼女の様子を見ていた幸人が、ついに痺れを切らして聞き尋ねる。


しかし、彼女がその質問に答えることはなかった。


「ったく、なんなんだよ一体…」

彼女が質問に答えてくれなかったので、幸人は少しばかり口を尖らせる。


…ここにいたら、まずいことが起きる…??


「なあ、宏樹もなにか言ってくれよ」

理解が得られなかった彼は、次に宏樹の方へと話を振る。


だが話を振られた宏樹の方も、秋葉と同じく彼の話には耳を傾けなかった。


「幸人。ここは彼女に従おう」

宏樹はただ一言、彼にそう言って英傑「KV-2」を前進させた。


彼は秋葉が言った話の節々に、共感できるものを感じていたのだ。


「え?あ!おい!待ってくれよ宏樹!!」

ついに、一人になってしまった幸人。


流石にここに一人でいるのは嫌だったか、彼も仕方なく秋葉達の後に続いて走り出した。


✳︎ ✳︎ ✳︎


それから、先を走る秋葉に続いて移動すること数十分…。


「ここは…最初の??」

周りの風景に既視感を感じた宏樹が、静かに呟く。


三人がたどり着いた場所は、宏樹と幸人がはじめに空世へと入った、あの森林だった。


「あなた達も、ここから入ったんだね」

「まあね」

宏樹の呟きを聞いて、秋葉が同じ道を辿ってきたと明かす。


そうして、ひとまず周囲が安全なことを確認した一行。


「それじゃあ早速だけど秋葉、あの群蛛?とかいう敵のことを教えてくれ」

ようやく話ができるようになったところで、幸人がそう質問をした。


「わかった…」

そんな彼に対して、秋葉はゆっくりと語り出した。


彼女が幸人に説明した「群蛛」の性質は主に三つ。


まず一つ目は、赤黒く燃える履帯を装備しており、怨魂とは違って統制的・機械的な動きを見せること。

これは、宏樹も実際に目の当たりにしているので、疑問に思うところは一切なかった。


「つまり怨魂よりも強力で、厄介な相手という訳だな」

かなりアバウトだが、幸人もその性質については概ね理解したらしい。


そして二つ目は、群蛛はその紅く燃えた履帯炎を使って、空中走行ができるということ。

これも、宏樹が実際に見た群蛛の性質だった。


「空中走行?なんだよそれ、チートじゃねぇか」

一方で、その性質を人から聞いた幸人の方は、ちょっと引いていた。


確かに彼のその表現は間違っていない。


戦車というのは通常、上からの攻撃には非常に脆い。

そのため、空中からの攻撃なんてものを受ければ、被害は甚大だ。


そんな驚きの性質を話した後、最後の三つ目について秋葉が話した。


「最後は『群蛛が近くにいる時、宿号もまた近くにいる』という性質があることだね」

秋葉は、まるで古代からの言い伝えかのような口調で話した。


「おいおい!宿号も近くにいるってのは本当か!?」

その話に最初に食いついたのは、幸人ではなく宏樹の方だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君と僕達の英傑聖戦 寿藤ひろま @SudoHiroma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ