第2話 

 雛子先輩と水族館へ行ってから1年程経った。

 先輩と私の関係は相変わらずで、一進一退といったところ。


 先輩は「好き」という感情がわからないと言いながら、わからないが故になのか、いろんな人にちょっかいをかけ、私からしたらスキンシップ過剰なのではとハラハラする事も多々あり。案の定、告白されることも多いらしい。

 そして、その全てに「よくわからないから」とキッパリ断っているらしい。


 私も一度振られているけど、猛アタックして何度か一緒に出掛けていて、1番仲の良い後輩の立ち位置は確保していた……筈だった、この夏までは。



「あ、美羽ちゃん今帰り? 風邪治って良かったね、あれまだ鼻声じゃん、早く帰って休みな」

 声をかけてくれた雛子先輩と、一緒に楽しそうに水やりをしているあの子。


「誰だよ」

 1人寂しい帰り道、私は独り言ちたーーもちろん、同級生だし同じ委員会だし顔も名前も知ってるけど。

 雛子先輩が私に話しかけた時に睨まれたように見えたけど、気のせいかな。

「そこは私の場所なのに」

 心の声は、道に転がる小石に吸い込まれた。


 今年の夏休みも、先輩達と遊ぶ予定だった。今回は夏祭りに行こうという話で、もしかしたら雛子先輩の浴衣姿が見られるんじゃないかとワクワクしていたのに、その日私は夏風邪を拗らせ寝込んでいたのだ。悔しい。

 後から聞いた話で、例のあの子ーー服部花音が参加していたことを知った。なんでも先輩の地元の花火大会で偶然会って誘われたらしい。

 ちょっと待って、先輩と2回も花火見たってこと? くぅ、悔しすぎる。




 次の日の放課後、私は先輩を待っていた。約束していなかったから、正確には待ち伏せというやつだ。


「雛子先輩、一緒に帰りましょう」

 先輩は、一瞬考えて「いいよ」と言ってくれた。良かった。

「美羽ちゃん、カキ氷食べたくない?」

「食べたいです」

 少し涼しくなったとはいえ、今年の夏は非常に暑かった。

 夏休みの暑さや、風邪をひいたいきさつなんかを話しながら、ファミレスへ入る。先輩はイチゴ味、私はマンゴー味。

「そっちも美味しそうだね」

「食べます?」

「うん、美味しい」

「そろそろ夏も終わりですね」

「寂しい?」

「はい、先輩と一緒に花火見たかったなぁ」

「夏祭りのメインだもんね、花火は。写真見る?」

 先輩たちの楽しそうなショットを見せてもらう、残念ながら、お目当ての先輩の浴衣姿はなかった。


「ねぇ先輩、花音とはどういう関係なんですか?」

「えっとねぇ、夏希の妹の幼馴染……かな。あ、夏希っていうのは中学の時の友達ね」

「あ、はい」

 そういうことを聞きたかった訳じゃないんだけどな。

「向こうも同じこと聞いてたよ」

 クスクス笑いながら教えてくれた。

「美羽ちゃんとはどういう関係ですか?って」

「え、なんて答えたんですか?」

 ただの後輩? 振った相手?

「ふふ、ひみつ」

 また更に楽しそうに笑う、先輩のSっ気全開だ。


 ファミレスを出て家の近くまで来ると薄暗くなってきた。日の入りが早くなってる。

「ちょっとコンビニ寄っていい?」

「はい、待ってますね」

 夕暮れの空を見上げる。

 秋から冬になり春が来れば、先輩は卒業していく、もう、こうやって一緒に歩くこともない。夏があっという間に過ぎ去ったように、きっと季節は進んでいく。


「ちょっと来て」

 先輩について行くと、公園に入っていた。

「え?」

「花火しよ!」


 コンビニの袋から出てきたのは、花火とシャボン玉。

「はい、持って」

 私の両手に持った花火に火をつけて満足そうに「綺麗だね」と言い、それから、シャボン玉を吹く。

「ほんと、綺麗」

「ふふ、いいでしょ。やってみたかったんだ」

 それから、交代したり一緒にやったり、あるだけの花火を楽しんだ。

「何か悩みがあるの?」

 不意の先輩の言葉はとても優しい音だった。

「あ……」

「先輩が何でも聞いてあげるよ」

 そうだ、これが私の好きになった人なんだ。

「先輩」

「うん」

「振るか付き合うか、どっちかにしてください」

 中途半端は、もう終わり。

 もう一度振られたなら、キッパリ諦めよう。








「なら……付き合おうか」




【了】

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