第11話~やっぱりスローライフはやめられないぜ~
ピシャーン!ゴロゴロゴロ~~~~。
そこは何処とも知れぬ鍾乳洞。鍾乳洞の中なのに何故か雷鳴が轟く。
ピシャーン!ゴロゴロゴロ~~~~~。
そして雷光に照らされて大きな古城の姿が浮かび上がる。
その古城の中の大広間には大きなテーブルがあるが、今そこに座っているのは一番奥の上座の席に座る少女1人である。
その少女の背後の壁には1枚の大きなタペストリーが下がっている。そのタペストリーには赤地で白い丸が描かれており、その丸の中に黒い鉤十字が書かれている。
いわゆる「ハーケンクロイツ」である。
ここは世界で暗躍するナチス教団の本拠地である。
そのシンボルマークである「ハーケンクロイツ」を背負って座する少女こそが、誰であろうナチス教団の総統である「アンゼリカ・ヒトラー」そのヒトである。
アンゼリカは肌の白い黒髪黒瞳の少女である。
しかし、アンゼリカの右目には分厚い水牛の皮で出来た眼帯で覆われていた。そして、その眼帯にもハーケンクロイツがあしらわれていた。
上座に座るアンゼリカの身長は148㎝。
まるでお誕生日会の主役の席に座る女の子みたいである。
しかも髪型がおかっぱ頭と言うやつなのでなおさらである。
しかし、アンゼリカの服装はドレスではなくカッチリとした軍服で、軍帽も被っており脇には軍刀も立て掛けてある。
今は腕を組んで思案にふけっている。
————と、つむっていた目を見開き、
「この任務、ドイツに頼もう!」
し――――――ん。
「ふっ、ナチスだけにドイツに頼もう。っか。所詮1人っきりでは誰も笑ってはくれんよな。そもそもつまらないしな」
アンゼリカはやさぐれた視線を横に流しながら。
「総統だけに言うことが見た目相当、ってか」
し―――――――ん。
誰も居なけりゃ笑いも起きないし、閉め切った部屋じゃ風も吹きやしない。その虚しい空気にアンゼリカは半眼になる。
そもそもこのアンゼリカ、見た目相当の年ではなく悠久の時を生きたハイエンシェントである。
「そもそもだ。今この城に居る幹部は研究馬鹿で引きこもりのアルデルセンと親衛隊の体調でワシの護衛のくせにドッカほっつき歩いているガ・マンの2人だけ。あ奴らに笑われてもムカつくだけじゃ」
と、アンゼリカは2人に笑われるとこを想像した。
アルデルセンは「フッ」と失笑するだけだろう。
ガ・マンにいたっては腹を抱えてバカ笑いするだろう。
「くそう!想像しただけで腹が立つのじゃ」
まぁ、じゃぁどういう笑われ方をしたら満足なのか?と聞かれても答えられそうにないので思考を本題に戻すことにする。
と、そこに筋肉質でガタイのデカい男が部屋に入って来た。
「ガ・マン……か。今までどこにいた」
アンゼリカにガ・マンと呼ばれた男はまさに獣のような男だった。逆立った赤い髪のモヒカン頭。浅黒い肌は傷跡だらけ。トラから無理やり生皮をはいで羽織っているような上着に、むき出しの胸と二の腕には赤い毛がモッサリというかギザギザと生えている。下はカンフーズボンのようなモノを履き素足で歩いている。
「ガハハハハハハハ!ちと便所にな。そしたら総統が相当考え込んでいらっしゃるから出るのをガマンしてましたわ。プッ、ハハハハハハハ」
「にょ!」
「ハハハハハハハ。しかしナチスだけに「この任務、ドイツに頼もう」ってサイコーに面白いですな。ハハハハハ、総統プギャァァァァァ!」
「ぬおう。貴様ワレをバカにしているのか。プギャァァァァァ!とはなんじゃ、プギャァァァァァ!とは」
「総統、これはカワイイの上位の……えっとなんだっけ、まぁいいやあれです。すっげぇカワイイをプギャァァァァァ!って言うんです。アルデルセンの奴が言ってました」
「っなわけあるかバカ。完全にバカにした言葉じゃぞ。おぬし騙さておるのじゃ」
「ぬぅぁにぃぃぃ!また騙しやがったのか。アルデルセンのやつまたぶん殴ってやる。っと、それはそうとう」
「まだ続けおるか!」
「総統も便所に行っておいたらどうですか?朝から行ってないでしょう」
「総統はトイレには行かないのじゃ」
「えっ?つまり総統はおも――――」
「してないのじゃ。おぬしはワレをいくつだと思っているのじゃ」
「総統11ちゃい」
「むきーー、バカにしすぎじゃ。おぬしはワシに仕えて何年になるのじゃ」
「かれこれ100年になりますかね」
「その間ワレがトイレに行ったことあったか」
「いえそういえば……はっ、総統はトイレに行けない?」
「それではワレがダメな子供みたいではないではないか。総統はトイレに行かなくてもいいのじゃ」
「そうか。オムツ……」
「ちっが――――う!総統は排泄はしないのじゃ」
街を1つを生贄にしてアンデットだらけのダンジョンにするような悪逆非道な行いをする悪の秘密結社ナチス教団の日常がこんなにも緩くてバカバカしいものだとは世界中の誰もが想像もしていないだろう。
カエサル大陸。この大陸は東西に長めの大雑把に言って四角い大陸である。気候は安定しており農業や酪農が盛んであり、人類種の中ではノーマノイドが多勢を占めている。そのカエサル大陸を中心部分で縦に東西に分つエルガ大山脈と言うものがある。
そして東部側の大陸中央部に古い歴史をもつアフタヌーン王国がある。
そのアフタヌーン王国の現国王はエイジング・ハイブロウ・トワイニングと言う。
彼は12年前に王位継承争いで国を2つに割ったが、ライバルであった弟の死によって玉座に付いた。
その後は魔王の侵攻で傷ついた国土を見事に復興させて国民からの支持は高い。
しかし、エイジングには悩みがあった。
それは王位継承問題だ。
今の所長男が王位継承候補第1位であり彼が王位を継ぐことに子供達も貴族も国民たち意見が一致していた。
平和なものだった。
自分の時もそうだたが、弟はエイジングが王に成ったら自分が守ると言って剣の稽古に励んでいた。
その弟が偉業を成し遂げた。それはアフタヌーン王国の歴史に、いや世界の歴史に名を残す偉業だった。
それ故に国を2つに割ってしまった。
エイジングと弟、それぞれを担ぎ上げる派閥が出てきて保守派と革新派と言う形で権力闘争へと発展していった。
その結果が弟を死へと、呪毒での暗殺へといたった。
そして、時を同じくして先王をである父も他界してエイジングが王位につくことになった。
2人の死には共通点は無かったが、弟の暗殺した犯人が分かっていないこともあり国民からはエイジングを暗殺王と呼ぶ声もあった。
それも12年の努力で鳴りを潜めて良き王としての名声を得ている。
そして子供たちには自分のような目には会ってほしくなかったので王位継承問題が起きないように準備している。
が、一番の問題児のエイラが帰って来た。
エイラは一番弟になついていた。それ故にエイラはエンゲジングとその派閥を嫌っていた。
その為に社交界には出ないし政略結婚にも反対している。そのエイラが1年前に病期を口実にユール地方のあのダビが有るローゴの町に引っ込んでしまったのだ。
それが帰ってきたのだ。
それもダビのダンジョンの攻略が成功した報告と共に。
だから家族だけでなく大臣たちも交えて出迎える。
「エイラ姫様のおなーりー」
衛兵の掛け声に合わせてエイジングの3番目の娘、エイラ・ハイブロウ・トワイニングが内政用の大広間に入って来た。
その顔は元気溌剌で大胆で自身に満ちていて、そして―――何より何かを企んでいる。そんな顔をして居る顔だった。
「お父様、並びに皆さま。帰って早々ですがご報告があります」
「————てな感じでビシッー!と決めて、反対する大臣はズバー!と説き伏せて、キチィー!と私はちゃんと頂き公爵として独立させていただきましたわ」
「わー、すごいです」
パチパチパチ。
と、王都での活躍を自慢するのはエイラである。
エイラは金髪碧眼の白い肌の正真正銘のお姫様である。
飾りっ気は少ないが効果と分かる青いドレスにボインバインボキュンボンのナイスバディーを治めた淑女である。
そのエイラが髪を振り、手を振り、胸を弾ませて語るのは誉めてほしいからにほかならない。
そしてパチパチと拍手でエイラを褒めるのはミルと言う黒いカソック着た神父様。
エイラは見た目はまさしく
「オンナァァァァァァァァァ!」
と主張する背の高い人物であるが、エイラと同じ年の17歳であるミルは着ている服がブカブカの小柄で繊細で中性的な人物である。
本当にビジュアル化するとどっちか分から成るほど中性的なミルは――――
「ォンナです」
と、小さい主張しかしない体型だ。
だが、彼女には付いているのでる。アレが。
そう、神の祝福、神の恩寵、神の奇跡、すなわちギフトが。
ギフトとは神がその者が生まれながらに授けた特別な力である。
ミルが仕える神はT字教団、Tの文字をシンボルマークとする教団の神である。
そしてTとは釣り合った天秤の事である。つまりは公平なる正義の元に勝利をもたらす神「テュール」のシンボルである。
ミルはこのギフトにより髪や瞳が赤みがかった銀髪である。力を使う時はこれが強く輝く。
そのミルはド田舎のT字教団の信仰のない町で神父をして居る。なぜ女の子のミルが神父をしているかと言うと、T字教団自体はカエサル大陸全土に布教しているし、アフタヌーン王国でも信仰されている。
しかし、ド田舎のローゴでは独自の信仰がありT字教団の教会は有って無いも同然だった。これにより神父の肩書など飾りになり女のミルが神父をやっていたのだ。
で、お姫様のエイラと女神父のミルの関係であるが、それは「ママ友」である。
実は2人の好きな男が同じ男であるのだが、この男が訳ありの子持ちなのである。
で、この男がパパになった時にママも必要だよな、と言う話になり当の子供がママはいっぱいがいいと言ったのでエイラによってハーレム計画が持ち上げられた。
まぁ、その1号さんがミルに取られちゃっているのは笑いごとだった。
で、エイラはお仕事で王都に行って帰ってみればなんかミルが色っぽくなっているし、左手薬指にリングを付け続けているし、で絶対に何かまた先を越されたと思っている。
「で、その肝心のオジ様は何処に行ったのですか―――!」
エイラは左手の小指を噛んで叫びながらのけ反った。これぞエイラの一発芸「エイラアアァァァァァ!」である。
見慣れたそれをミルは拍手をしながら「それなら」と言いかける。
「そんなことよりミル様、よろしいですか」
エイラの従者、褐色の肌に銀髪のメイドであるマルタが話に入って来る。
マルタはメイドであるがエイラの護衛でもあり強い男が好きなのである。その為、主人と同じ男が好きになりハーレム入りを希望している。
いつもは人形みたいに気配がないが、今は獲物を狙うネコのような目を開き―――
「ミル様は先輩とヤッタのですか?」
グッとこぶしを握って人差し指と中指の間に親指を抜き差ししながらドストレートに聞いた。
ボッン!と顔を真っ赤にしたミルがドストレートに無言で答えた。
「これは黒。というかレッドカードですね」
目を伏せ静かに言い切るマルタ。
エイラは小指の第一関節を噛み噛みしながら答える。
「今更先を越されるのはいいわ」
「私はよくないのですが」
「こんなのはもうオジ様の気持ち次第ですし、むしろオジ様は誘い受けよ。無理に攻めるのは悪手よ」
「なるほど」
エイラは城の書庫で昔読んだ薄い本の知識を語って誰が一番かより自分の相手をしてもらえる方法を考えている。だが――――
「そんなことより肝心のオジ様は、ミルさんはオジ様の行先は知っているのですよね?」
赤い顔をしながら人差し指の先をチョンチョンさせながら「あれは毎回ダンテさんが……」とぶつぶつ言っているミルに、エイラは肩を掴んで尋ねる。
目を回しているミルはエイラに顔を覗き込まれて正気を取り戻して、それならと。
「やっぱりスローライフはやめられないぜ。と言ってクゥちゃんと2人でキャンプに行きました」
私も行きたかったんですけどね。と言うミルの言葉を聞きながらしながらエイラは考える。
まさか逃げた。いやいやいや、ソレは無い。オジ様を蝕んでいた呪毒はクゥちゃんにより撃退できたと言いますし、実際オジ様は元気になってしまいましたし、ダビ攻略にも街の復興にもやる気を見せて良ませていたわ。
逆にやる気を出し過ぎた?
やる気を出し過ぎたせいで結果冒険者魂に火がついて、またすべてを投げ出してでていった。
いや、それならこのミルさんを留守番にして行くはずがありませんわ。オジ様がミルさんを気に入っているのは悔しいですけど事実です。
と、いうことは本当にキャンプ?まさか本当にあの馬小屋暮らしが本気で気に入っていたとでも?
と考えた結果。
「とりあえず、オジ様が帰って来ると信じて待ちましょう。っで、ミルさん」
「?ハイ」
「最近の夜のお楽しみについて詳しく聞かせてくださらない」
「ふっひゃいぃ!」
エイラとマルタによるミルいじりが始まった。
そして、その問題の男のダンテが何をしているかというと。
「クゥ、急いで逃げるぞ」
「パパ~。やっぱりやり逃げはよくないと思うよ~」
「ハッハ~~~。これはやり逃げが正解なんだよ」
思いっきり逃げていた。しかもやり逃げが正解だと今のエイラが聞いたら激怒しそうなことをのたまいながら走っていた。
「ねぇ、別に倒してしまっても構わないんじゃないのかな」
「おいクゥ。そのセリフは危ないから気を付けろ。後アイツはやっつけちゃダメだ。アイツはレアなの。倒したらあいつは次いつ
そういうい男ダンテの腕に有るのはカラフルな一抱えもある果物がある。男は短く切られた鉛色の髪をしたヘラヘラしたながらも鋭い灼眼をもち、頬がやや痩せた加齢臭のするオジサンである。
このダンテ、ちょっと病的な顔立ちだがその原因は取り除かれて今では元気いっぱいヤル気いっぱいで走り回っている。
そしてダンテの横でダンテと同じ果物を頭の上に乗せてぴょんぴょんと走り回る女の子がクゥである。
見た目は10歳位の赤くて長い髪に金色の瞳をした元気な子供だ。これでも生後1か月足らずの赤ん坊である。
よく見れば背中に赤い鱗が生えた羽としっぽが生えている。
つまりクゥは人間の子供に見える姿をしているが人間ではない。ドラゴンの子供だ。クゥは卵から孵る時に近くにいた最も強い生物、つまりダンテの生体情報を取り込みダンテの子供として生まれてきたのだ。
ダンテはクゥを認知して育てることに決めた。
だが、本来のドラゴンに他種族の生体情報を取り込むような生態は無い。
これはクゥの特別な個体としての能力であるらしい。
しかしそれに係わる事情を本来の生みの親が黙して語らないので分かっていない。
しかしダンテはそれはそれで面白いと考え始めている。病気が治ってやんちゃ心が戻ってきたのだ。
はてさて何が出るやら。
と、ダンテは暢気に考えているが2人は現在進行形で追われる身だ。
「意外と足が速いね。って、足は無いか」
クゥが後ろを振り返ると鬱蒼と茂る山の木々、その幹に器用に蔦や根っこを操り木々の間をすごい勢いで迫てくる巨大な花がいた。
「う~、まだくちゃい」
「ハハハ、足が速くて臭いがきついほど実が熟していて旨いんだよ。それがラララ~♪ラーフレーシ~ア~♩なんだよ」
「パパ~。なんでラララ~♪ラーフレーシ~ア~♩って歌うようにしか言えないの?」
「世の中には何故かそういう風にしか言えない言葉がいくつか存在するんだ」
「ハハハ~~~。変なの~~。それでこの実は売るの?食べるの?」
「食べるに決まっているだろ。その為のキャンプだ」
「ひゃっほう~~~~」
「お、ラララ~♪ラーフレーシ~ア~♩のやつ地面に潜ったぞ。よし、逃げ切った。今のうちにとんずらだ」
「合点承知の助」
ラララ~♪ラーフレーシ~ア~♩は一定時間しか外に出られないので地面に潜ったらその間に認知圏外へと逃げればいいんだ」
落ちぶれたオッサン冒険者、田舎でスローライフを満喫していたらドラゴンの子供を拾ってまたもや伝説を築く 軽井 空気 @airiiolove
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