第10話~大人の夜~
ローゴの町の東門。このあたりは昼間は町の出入り口として活気付いているが、夜になると閑静になる。そして店舗が並ぶ大通りから奥に行けば住宅がある。
東門付近は中央部に比べて空き家が多いが、明かりが付いている家はちらちら見られる。
その中でTのシンボルマークが屋根に付いた家にも明かりが灯っている。
そこはT字教団の教会ではあるけど、申し訳程度に祭壇があるだけの民家である。しかし、そこの主たるミル神父は上機嫌でステップを踏んでいた。
赤みがかった銀髪は軽く湯気を含んでお風呂上がりだと伺える。たなびく髪からはバニラの香りと陽の神気が漂っていた。
「るんるんる~ん。今朝は2日酔いだったし昼はくしゃみばかりで風邪っぽかったし、今晩はお腹にやさしい卵雑炊~♪」
と、卵片手に鼻歌を歌っていた。
「たのもーーーー!」
と、いつも訪ねてくる信者なんかいない教会の扉を勢いよく開く者は――――先日いたのでミルは驚くもののなんとか手に持っていた卵を手放すことなく堪えた。
「ひゃうっ―――って、ダンテさんまたですか。しかもこんな時間に。あっ、あれですね、凸撃隣の晩御飯ってやつですね」
と、朗らかに余裕の笑みで返すミルにダンテは真面目な顔で近づいて来て、そっとミルの横髪をかき上げて耳たぶにキスをして。
「———今夜、キミが欲しい」
と、っ囁いた。
ポカンと頭がフリーズしたミルは少し離れたダンテの顔を見つめている内に意味を理解して。
「はわぁ―――――っ!」
ボッン!とミルの顔が真っ赤になって爆発した。そして手にしていた卵を放り投げてしまい、卵はダンテの顔面に――――直撃せず優しく受け止められた。
ダンテは受け止めた卵をそばの台の上に落ちないように置いて、ゆっくりと優しく目を回して混乱しているミルの左腕を取る。
そして左手の薬指に――――
「はわわわわわわ、え?何で、え?え?あれ?え、あの、え?これ、指輪?え?」
「ちょと落ち着いたか。これはエンゲージリングってやつだ」
「エンゲージリング?え、何でいきなり」
「いや恥ずかしながらクゥに言われたんだよ。俺がミルの事本当に好きなら今回一番活躍したミルに何か形に残るプレゼントをしろって」
「それで……」
「あぁ、冒険中に知ったんだが、エンゲージリングってのは旧時代のお呪いなんだ。なんでも愛し合う男女が左手薬指に揃いの指輪を付ける事で死が2人を分つまでつなぎとめるという証となるそうだ」
そのダンテの説明を聞きながらミルはうつむき気味に左手薬指に嵌められたプラチナリングにダイヤモンドがあしらわれた指輪を見つめてから、上目使いでダンテの顔を見上げる。
「……ボクでいいんですか」
そう問うミルにダンテは。
「ああ、1人の男として女のミル、君が欲しい―――いいか」
はっきりと力強く宣言するダンテに、ミルはしばし沈黙を置いて。
「———はい。ボクもダンテさんが好きです」
と、小さくうなずいて答えた。
答えを聞いたダンテは片手でミルの腰を抱き寄せ、空いた手でミルのアゴをつまんでクイっと上に向かして、ミルも爪先立ちになり背伸びをして。
「んっ」
2人の唇が重なり合った。
チュ、チュウ、チュウ、チュチュ、、クチュクチュ、チュ~。
「んっ、ふぅん、んん、ぁむ、ん~~~~~~」
最初は強く押し付け合うだけ。そして1度息継ぎをしてからついばむように軽く触れあわせるキスを繰り返して、最後に深く唇を重ね合わせてお互い相手の唇を吸い合う。
チュ―――――ッ、チュポン。
「プハッ!ハァハァハァ―――ン、ダンテさん♡」
「ミルクセーキ」
「んっ、そっちの名前で呼ばれるのはなんだかくすぐったいです」
「そうか?」
「そうですよ。ダンディズム・ハイブロウ・トワイニングさん」
「うぐ、たしかに」
「ふふふ、これからも愛称で呼び合いましょう」
「そうだな」
「ふふふ」
「ははは」
そうして2人は互いの体をかき抱きながら更にキスを繰り返す。
チュウチュウ、プチュ、クチュチュウ。
「ん、はむ、んん、あむ、ん―――んん!」
キスを続けていたらいきなりダンテの舌がミルの口内に入り込んできて、ミルは驚いて背中を跳ねさせる。
ダンテはその背中を撫でて落ち着かせようとするが、ミルにはそれも快感になる。
その間も休むことなくダンテの舌がミルの口内を愛撫する。
ビクン。ビクッビクッ、ビクゥ!
「ん!んん、んぅ、あっはぷっんん~~~」
跳ねるミルを逃さないとばかりにダンテはミルを抱きしめて、ミルはダンテの背中を掻きむしるように抱き返す。
「んぅ~~~~~~んっ、ぷは!はぁはぁ、ああ、ダンテさん」
と、2人の口に艶めかしい橋を作りながら顔を離すとミルの顔はもうトロットロに蕩け切っていた。
しかしダンテはまだ休ませまいとミルの首筋に吸い付き舌を這わせていく。
「ん、ん~~~~~~!」
ミルはその感触に必死で声を噛み殺す。
チュ、ペロ、ペロペロ、チュパ。
「んっ、はぁ。んん」
下から上へと昇って来るダンテに、ミルもまた昇って行き―――そして。
「んっ、あっ、あ♡~~~~~~~~~~ぁ、あっ、ああ、はぁ、あぁ♡」
こらえきれずにミルは口から気持ちがあふれ出した。
背中は弓なりに反りかえってビクッンビクッンと跳ね、足もガクガク震えて自力で立ってられなくなり、抱きかかえるダンテに体をゆだねきっている。
ダンテはひとしきりミルの呼吸が落ち着くまで待ってから、手を小高いミルの双丘へと伸ばし―――た所をミルの手が止める。
「はぁ♡はぁ♡ダンテさぁん。この続きは、その―――ベットで」
「あぁ、そうだな」
そうして、ミルの家から明かりが消えた。
静かな夜の町、耳をすませば微かに笛の音色が聞こえて来ただろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ピシャーン!ゴロゴロゴロ。
そこは鍾乳洞の中でありながら雷鳴とどろく不思議な場所。
そこには大きな古城がある。
その古城の廊下を生気のない艶めかしい男が歩いていた。
男が廊下の突き当りにある大きな扉を開けると、男にいくつもの視線が集まった。
部屋の中には大きな机があるが机に付いている者はほとんどが影法師だ。それらは皆ここにはいない写し身だ。
実際に席についているのは2人だけだ。
赤い髪を逆立てた獣の様な巨漢の男と、上座に座る黒髪の少女である。
少女の右目の眼帯と少女の背後にかけられているタペストリーには黒いかぎ十字が書かれていた。
「よう、ダビでの収穫はあったか」
入って来た男は獣の様な男の問いに首を横に振った。
「なんだよ。まっ、お前っちゃお前らしいけどな」
「……代わりにこれを」
男が差し出した手の上には1欠片の卵の殻があった。
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