カミサマの里

立菓

カミサマの里

 令和の時代、ある田舎の山奥に、体の弱い中学一年生の女の子が住んでいました。女の子は両親と祖母、それから二人の弟と一緒に暮らしていました。


 女の子は幼い頃から体を動かすことが好きでしたが、生まれつき小児喘息しょうにぜんそくわずらっていて、思うように体が動かせない時が多くありました。

 だから、兄弟や友だちと一緒にスポーツをすることもできず、長年ものすごく悩んでいたのでした……。




 それで、学校の体育祭があった日。

 帰り道で、女の子は家の裏にある小さな神社を通り過ぎた時、すぐそばの紅葉並木の方から、柚子ゆずの香りがほんのりと漂っているのに気が付きました。


 その香りを放っているのは、一体どこなのかが気になり、女の子は紅葉並木を通り抜けながら、柚子ゆずの木を探したが、全く見つからなかったようで……。

 ……なのですが、紅葉並木の奥の奥まで行くと、なぜか柚子ゆずの香りはだんだん強くなっていたのでした。



 そして、紅葉並木を抜けると、女の子は今まで見たことの無い洞窟どうくつを発見しました。

 その洞窟どうくつは少し短いようで、出口らしき奥には陽の光がハッキリと見えたのでした。


 女の子は無意識に洞窟どうくつを抜けようとして、陽の光がある出口に向かいました。洞窟どうくつの奥に近付いていくと、さらに柚子ゆずの香りが強くなっていきました。




 ようやく洞窟どうくつの出口まで行くと、女の子はすっごく驚いたのでした。

 洞窟どうくつの先には、なんと……、あちらこちらにある柚子ゆずの実がなった木々に囲まれるように、木造の日本家屋が立ち並ぶ集落があったのです!


 よーく見ると、柚子ゆず以外に、みかん等の柑橘類かんきつるいもあり、どの木々も、たわわに実がなっていました。

 集落の真ん中には、竜胆りんどうくずなどの美しい薬草の花々も咲いているようでした。


 集落の上の方には鶏小屋があり、下の方には野菜畑や稲のある田もありました。



 それから、まるで春のような暖かい風が吹く中、集落の子どもたちは鬼ごっこ等をして、外で元気に遊んでいました。一方で、子どもたちの保護者らしき親や祖父母たちは、子どもと一緒に遊んだり、縁側で子どもを見守りながら、座って楽しそうに話していたのでした。

 集落の者たちは皆、女の子と同じような洋服を着ていました。


 また、飼い犬や地域猫らしき動物も多く居るようでした。



 ……と、ある家族の母親が、洞窟どうくつから来た女の子に気が付くと、女の子を家に招いて、夕飯をご馳走ちそうしてくれることになりました。

 長女の外見は、その女の子と年齢が近そうに見えます。


 そうして茶の間で、たくさんの薬草が入ったカレーライスを食べながら話しているうちに、長女と家族構成が全く一緒である上に、自分と同じようにスポーツが好きなことも知って、女の子と長女はすご〜く仲良くなりました。



 夕食が終わると、その長女は女の子を洞窟どうくつの前まで送っていきました。

 その後、長女は急にさみしそうな顔になり、女の子に向かって、こう伝えたのでした……。


「私……、千聡ちさとちゃんに出逢であえて、めっちゃ嬉しかったよ〜♪ なんやけど、うちらね……土地神の一族でさ、健康の神様スクナヒコナ様の弟子やから、ずぅーとっココからは出られないんだ……。

 この里の決まりでね、また帰りに洞窟どうくつを抜け終えたら、ニンゲンさんは頭の中の記憶は残るけど、ココまでの道順は忘れるってのがあって、私とはから、ね……? 本当にゴメン……。でも……でもっ、ありがとうっ! 私っ、千聡ちさとちゃんのこと、一生忘れないからっ!!」


「うん……、うんっ! わたしもフミちゃんのこと、ずっとずっーと覚えているって、約束するっ!!」


 女の子は長女に丁寧ていねいに夕食のお礼を言った後に、涙を流しながら再び洞窟どうくつを通り抜けて、長女と別れたのでした……。




 女の子が〈カミサマの里〉に行った、次の日のこと。実は、不思議なことが起きまして――

 まず、その日から、女の子は小児喘息しょうにぜんそく発作ほっさが全く出なくなりました。

 数日後には、友だちと一緒に、体育の授業や休み時間の運動を満喫まんきつできるようになりました! もちろん休みの日にも、兄弟と仲良く、村の運動場を自由に走り回ることもできるようでした。


 女の子の主治医は「ほぼ完治してるやんっ!?」と非常に驚き、流石に腰を抜かしたそうです。




 上記の女の子のお話を、カミサマの『ご利益りやく』と解釈かいしゃくするのか、素晴らしい『奇跡』だと思うのか、はたまた両方あるのかもと感じるかは、読者の皆様にお任せいたします。



〈おしまい〉

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