すれ違う幼い初恋

まどうふ

第1話 初恋の想い出

「ねえねえあそぼ!」

「うん! いいよ」


私には、今もずっと大事にしているクマのぬいぐるみがある。


「みてこれ!」

「ねこかな?」

「ねこちゃんのお耳はまるくないよ!」


「うーん、クマさん?」

「せいかい!」


それは初恋の思い出。


「クマさんすきなの?」

「うんだいすき!」


マンションのエントランスや幼稚園、お互いの家など家族ぐるみの仲で、今思えばいつも一緒に行動していた──


「うちの子がお世話になっております」


「いえいえこちらこそお世話になっております、これからも仲良くしてください」


「もう帰るわよみゆー!」

「ゆういちー帰るよー!」


「「えー!」」


「「まだあそびたい!」」


「うーん......後もうちょっとだけいいですか?」

「大丈夫ですよ」


「「やったー!」」


「全くもう、ほんと仲良いんだから」

「ですねー!」



──翌日、幼稚園にて。


「おい!どけよ」

「あ、ごめんね......」


「お前でかくて邪魔なんだよ! どっかいけよ!」

「え......」


美結はその場でしゃがみこみ、顔を覆い隠しながら泣き出してしまった。


「そんないわれただけで泣くなよ! 泣き虫!」


「おい! みゆちゃんをいじめるな!」

「なんだよあおい! お前もみゆを庇うのかよ!」


「みんな落ち着いて、はやとくんはみゆちゃんに謝って!」


「いやだよ! 泣き虫なのがいけないんだ!」


「はやとくんだって泣いちゃうことあるでしょ?」


「俺はあそこまで泣かねーし!」


はやとが大声でそう言った時、言い争いを聞きつけた幼稚園の先生が急いで駆けつけてくれた。


「何してるの!? みゆちゃんのお母さんもう来てるよー!」


「みゆちゃん大丈夫?」

「......っ......っっ......!」


大丈夫そうじゃないわね。


「じゃあちょっとお母さんの所に行ってくるから、優一くんは美結ちゃんを見ててくれる?」


「分かった」


そうして優一はみゆちゃんへ寄り添った。


「大丈夫......じゃないよね、気にしなくていいからね」


僕はそんな言葉しかかけて上げられなかった、目の前で幼なじみがいじめまがいな事をされているというのに......勇気が出なかった......


「どうしたのみゆ!」

「ちょっと嫌なことを言われてしまったみたいで」


結局は大人に頼ってしまう、負けてしまう。


「分かりました、ありがとうございます。ほらもう泣かないの、おうち帰るよ」


「またね、美結ちゃん」

「......うん」


2人は自転車に乗って家へ帰っていった。優一は美結の悲しそうな背中を見つめていたら、お母さんに連れられ美結の後を追った。



「まだ泣いてるの? 美結」


「もう幼稚園行くのやめる! 絶対行かない!」

「うーん......それは困るなぁ、優一くんにも会えなくなるしなぁ」


「......っ! ......行かない!」


美結のお母さんは少し悩み、あることを思い出した。美結はクマが大好きなことを。


「分かった! じゃあクマのぬいぐるみ作ってあげるから.....ね?」


「......分かった......」


こうして事なきを得た2人はエレベーターに乗り、自身の部屋へ帰って行った。


「へぇー、美結ちゃんってクマ好きなんだぁ」

「......うん」


少し複雑そうな顔をしながらエレベーターを待つ優一、その後はみゆちゃんのことが気になって気になって仕方がない様子だった。



「ゆういちくんあそぼ!」


「いいよ! ......そのクマのぬいぐるみ、どうしたの?」


「ママに作ってもらったの! クマさんとママがいればみゆ、元気になれるの!」


「ふぅーん......」


優一はまたも複雑そうな顔をした、その目線の先にはクマさんのぬいぐるみ。


「どうしたの?」

「いいや、なにして遊びたい?」

「じゃあ──」


この後のことは覚えていない、もう二十年前の話だからね。あの後優一くんは父親の転勤を理由に引っ越しをしてこれっきり会っていない。


「あっ......目が取れかかってる、変な顔──」


っ! 確かあの時優一くんは......悲しそうで複雑そうで色々混じったような表情をしていた......なんで?


そこで私は思い出した、複雑そうな顔していた優一くんの姿を。


「なんだ......やっと分かったよ」


クマさんのぬいぐるみ抱きしめ、私の思い出に一輪の花が咲いた。


それにしても重いなぁ......わたし......

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