キューピッドとぬいぐるみ

キューピッドとぬいぐるみ

　変な夢をみた。

　可愛いキューピッドが、クマのぬいぐるみを持って来る夢。

　ありがとうと、笑顔で受け取ろとしたら、急にぬいぐるみをもったキューピッドが2倍、３倍と増えていき、ぬいぐるみを次々に渡され、私はその大量のぬいぐるみに埋もれていって、苦しくなってもがいているところで目が覚めた。

　心臓をバクバクさせながら目が覚めた私は、部屋の棚を見回す。

　ああ……

　いい加減、こんな夢も見るようになるわね、こんなに、ぬいぐるみだらけの部屋にいるんだから……

　付き合っている彼氏は、商社マンで常に忙しく、約束の時間に遅れたり、約束を守れない事も少くない。

　まあ、まだまだ下っ端だし、ある程度は仕方ないと思ってはいるんだけど……そういう事が重なると私も腹が立つし、嫌味のひとつふたつ言いたくなってしまう。

　そんな風に私の機嫌が悪くなる度、彼がぬいぐるみを買ってくるもんだから、部屋はすっかりテディベアだらけになっていた。

　何故テディベアを買ってくるかというと、多分……彼に初めて貰ったプレゼントがテディベアで、その時にとても嬉しくて喜んだからだと思う。

　別にぬいぐるみが嬉しくて喜んだわけでは無かったんだけどね。

　そんな彼氏が最近ソワソワしている。

　家に来ると、やたらと棚に置いているぬいぐるみを気にしていて、わたしが台所に立った時にぬいぐるみの様子を見に行って触ったり、少し位置を変えたりしている。

　最初は何してるんだろ？と思っていんだけど、すぐに彼の意図に気付いた。

　なんと、ぬいぐるみ達を置いている棚に、プレゼントの箱を抱えているテディベアが、いつの間にか増えている！

　これは……指輪の箱に違いない！

　それに気付いた時、私は吹き出しそうになった。

　テディベアと指輪……なんて彼らしい発想。

　可愛い過ぎるぞ、私の彼氏！

｢あ、あれ、僕が初めてあげたテディベアだよね｣

　と、彼がどもり気味で話をふってきた時は、吹き出しそうになるのを我慢するのに必死だった。

　見れば、初めて貰ったテディベアの横に、例の箱を持ったテディベアが並んでいる。たしか、初めて貰ったテディベアは、もうちょっと奥に隠れるように置いていたはず……。

なんとか気付いて貰おうと、彼なりに考えたのだろう。こっそり並び替えている彼の姿を思い浮かべると、もう……たまらない。

｢そうね、あの時は嬉しかったなー｣なんて言いながらお茶を入れる口実でその場を離れ、台所でひとりニヤニヤしてしまったわ。

　あれから1週間、私は何も気付かない振りをして、いつ気付いてくれるのかとソワソワする彼の様子を楽しんだ。

　本当に、気の長い……可愛いひとね。

　さて、そろそろ、喜ばせてあげないとね……。

　明日は休日だし、今日はシャンパンを買おうかな。

　例え、キューピッドがどれだけ沢山のテディベアを持ってきても、今度は全部上手に受け止めて見せるわ！

　だから安心してね、ダーリン。

　End