さいしょのあの日

きみどり

さいしょのあの日

 魔犬が大きく跳躍する。そのまま放物線を描くように突っ込んできたソレを、俺は迷わず串刺しにした。

 切っ先を向けて構えていただけの剣に、魔犬は自らの勢いで深々突き刺さり、ぶら下がる。

 それが狙いだったのだろう。

 死体に剣を呑み込まれたままの俺に、四方八方から新たに魔犬が飛び掛かってきた。


「ダメーッ!」


 叫び声。と同時に、俺と魔犬との間に何かが飛び込んできた。ピンク、オレンジ、グリーン。カラフルな何かが魔犬に引き裂かれ、綿が飛び散る。

 その隙に俺は小癪な屍の鞘を払い、瞬く間に魔犬を殲滅した。


「無駄なことするな! 手ぇ出さなくても勝てた!」

 戦闘が終わって、まず叱責を始めた俺に、目の前の幼馴染みはへにゃりと笑う。

「だって怖かったんだもん。君までいなくなっちゃったら、僕は……」





「縫ってくるめばぬいぐるみ♪ 縫ってくるめばぬいぐるみ~♪」

 焚き火の傍ら、調子外れな歌が響く。幼馴染みが手際よく動かしているのは仄白い光を抱く針だ。自身の胸からスルスルと出てくる糸を使い、布を縫い合わせていく。綿を詰めて、仕上げに綿入れ口を綴じれば完成だ。

「できたっ! これでまた君を守れる」

「だから余計なことするなって」


 ぐるみを使役する。それが彼のスキルだ。

 対象は能力による針と糸を用いたぐるみに限られるが、魔力を多く流したぐるみほど精巧で強大な力を持つ。

「もっと作らなきゃ」

 苦笑する俺をよそに、彼は新しい布を取り出した。



 俺たちの故郷は魔物に滅ぼされた。

 あの日、俺は彼の目の前で魔物に腹を掻き切られて死んだ。

 彼の魔力は膨大だったのだろう。ぐるみで魔物を退けつつ、彼は泣きながら俺のはみ出たはらわたを腹に戻し、自身の針と糸で縫い綴じた。

 自分で見たはずのないその光景を記憶しているのは、俺がもう彼の一部だからなのだろう。


 統率のとれた大群には明らかに司令塔がいた。達はソイツを見つけ出し、必ず殺す。

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さいしょのあの日 きみどり @kimid0r1

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