第2話 砂漠の巨虫
太陽が照りつける中、二体のサンドワームはガルムに気付き、前進を始めた。
「ふぅ…………よし」
何度か深呼吸をして呼吸を整えた後、大地を蹴ってサンドワームへ向かい、走り出す。
二体のサンドワームは互いに競り合いながら前に進むため、動きは不規則だが速度が落ちていたため予測は先程よりも簡単だった。
まずはガルムを追いかけてき小さいのから狙う。
ぶつかりあった際に生まれる二体の脇の空間にうまく入り、大きい方の体を蹴って高く飛躍する。
「くぅおっ!」
人間のみの力ではほぼ不可能である高さまで跳ぶ。それを可能にしたのは、大きい弾性の特徴を持つサンドワームの筋肉だった。
そうして、ガルムは小さいサンドワームの体の上に乗る。こうなればあとは簡単だ。
頭上付近まで体の上を伝って進み、到着の後思い切りファルシオンを脳天にかます。
いかにも魔物らしき奇声をあげながら、小さいサンドワームは数回転。ガルムは落ちる前に飛び降りて、大きいサンドワームに向かう。
さて、問題はここからだ。
先程の芸当は、サンドワームが二体以上いて為せる技だ。一体であれをやろうとすれば、相当の技術が必要とされる。
ガルムは走りながらも深く考え込んだ。
先程のように、片方を使って体の上に乗るのも良いが、また次も上手くいくとは限らない。
かと言って、正面から行けば巨大な口に一瞬で全身を抱かれて終わりだ。
戦闘において、勝機が十割に達することは絶対にない。戦いは周りの状況次第で、一瞬のうちに優勢が劣勢に変化が生まれるいわばギャンブルだ。どれだけ運を味方につけられるかが、自分の運命を大きく変える。
そういったスリルがたまらなく好きで、戦争に参加する者もいるくらいには、だ。
そういうやつから早死にする。
無駄話が過ぎた。さて、ガルムはこのあとどう出るか?
ガルムは踵を返した。
今までの進行方向とは全くの逆へ、走り出す。サンドワームの後ろに、一つの谷が見えた。そこへやつを誘導できれば、勝機がいくらかできる。
だが、今とは全くの別方向。ガルムは、一つの可能性に賭けていた。
ガルムの行く先には、先程倒したサンドワームが転がっている。あれをどうにか使って上手く方向転換をし、さっさと谷へ向かう。
脳内ではそうなっていた。
しかし、現実はそう上手く行かない。
大地を蹴ってサンドワームの体を使って反転したはいいが、降り立った場所は先程とほぼ変わらない。
反転した勢いがまだ残っている。
ガルムは腹をくくり、その勢いのままサンドワームに突っ込む。斬撃はサンドワームの口周りに当たった。
当たったは良いが、それと同時にサンドワームの巨体にその後撥ねられ、二十メートルぐらい飛んだ。
「うっ……!」
地面が砂と言っても、砂漠の砂だ。熱く、そして痛い。受け身も取りそこねたせいでなおさら痛い。
口から出血しながら、互いに向かい合う。
だがこの状況、優勢なのはサンドワームの方である。ガルムは人間の小さな体には、大きすぎるダメージを受けているからだ。
一歩踏み出すたびに、体中の節々がキシキシと痛む。
(やべぇ……)
先程のように、体が自由には動かせない。
つまり、回避行動もままならないということ。
そのことに、ガルムは危機感を覚えている。
サンドワームは頭が悪くとも、この状況はなんとなく理解しているようで、ガルムに直線上ではなく不規則に近づいていった。
ガルムはファルシオンを逆の手に持ち替え、体制を立て直そうとするが、構えたファルシオンの切っ先は震えていた。
怪我もあるが、ガルムは少し恐怖を抱いている。
もしかしたら「死ぬ」かもしれないという恐怖だ。
「くっそ……やっぱ魔物相手にするのは嫌いだな……」
ガルムは死を覚悟した。
すると、背中から一つの声が響く。
「おい、あんた!受け取れ!」
声のした方を見ると、さっきの冒険者がまだそこにはいた。その冒険者は右手に何かを掴み、それを投げてくる。
ガルムはそれを受け取って手元を見る。
投げつけられたのは何の変哲もない、「傷薬」だった。
ガルムはこれを受け取ると一つ笑い、傷薬を口に含む。
傷薬とは、包帯などといった一種の治療道具。
だが、普通の治療道具とは全く違う点が一つある。それは、使用した直後に傷が癒えることだ。
作り方は至ってシンプル。然る場所でいくらでも採ることのできる薬草を水たっぷりの鍋に浸し、火にかける。そこからだいたい半日ほどで火から揚げ、入れ物に注げば完成だ。
時間はかかるが、一度に大量量産することが可能なため、比較的安価で取引される。
ガルムは痛みがだんだんと引いていくことを自覚すると、ファルシオンを再度握り直す。
砂漠の相棒 ずここ @zukoko
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