砂漠の相棒

ずここ

第1話 番犬の名を持つ男

「砂漠の王国」と呼ばれ、世界中から多くの商人が集まる商業の栄えた国家「サンドニア王国」。

この国の近くには「竜の巣」と名付けられている大型迷宮が存在する。その名の通り、この迷宮には多くの竜種が生息している。


そして年に一度、ここに棲む竜は大群で迷宮から現れ、サンドニア王国の地上と上空に押し寄せる。

これを王国では「ドラゴンフィーバー」と呼んでいる。


ドラゴンの素材は良質で価値が高い。そのため、この国には冒険者という職を生業とするものが多く集い、皆、竜を討伐して一攫千金を狙っている。







「スコーピオン五体分だ。確認を頼む」


そう言って、一人の男はカウンターのような机の上に大きな袋を置く。


整えられておらず、ボサボサではあるが清潔感のある淡い栗色の髪。それを首元まで伸ばしている。

彼の名はガルム。しがない冒険者だ。


彼はこのあたりでは有名な冒険者で、巷では「狂犬」やら「番犬」やら「餓狼」という異名で呼ばれている。

これらすべての異名は、彼の過去の経歴から来ている。


だが、その話はまた今度にしよう。

今、彼について説明するつもりはないし、何より彼自身がそのことを語られるのを何よりも嫌う。

私は優しい。だから、彼の嫌がることはしない。


おっと、彼が戻ってくるみたいだ。

語りの仕事から少しお暇させてもらうよ。


「おい、何をニヤニヤしてるんだ?気持ち悪いぞ」

「いや、何でもない。そんなことより、鑑定結果はどうだったんだい?」


私がそう聞くと、ガルムは金の入った袋を何も言わずに投げつけてくる。

少し重かったが、受け止めることはできた。

袋を開けて中を確認すると、予想していたものより少し多い硬貨が入っていた。


「千百メロウか。まぁ、上々だね」

「あぁ、一匹だけでかい針持ってたから殺して剥ぎ取ってきた」

「じゃあ五百は私が貰っていくよ。ありがとうね」

「…………クソババァ……」


ぼそっと、ガルムは愚痴を漏らす。


「なにか言ったかい?ガルム」

「いや、なにも」

「口の聞き方には気をつけたほうが良い……。六百の方を持っていかなかっただけ感謝するんだな」

「はいはい、わかったわかった」


めんどくさそうに顔をしかめたガルムをあとに、私はギルドの扉を出た。


さぁ、語り手に戻ろうか。

このように私は度々語り手をやったりしなかったりする。まぁ、分かりにくいと思うが我慢してくれ。私自身も混乱することがよくある。

あぁ、私のことは「カタリ」とでも呼んでくれ。ガルムからもそう呼ばれている。


おっと、そんなことを言っているとガルムが市場の方へ出かけたみたいだ。追ってみよう。




「……ったく……六百程度じゃ宿に泊まったらもう金がねぇじゃねぇかよ」


自慢のタルワールを拵え、頭を掻きながら今夜の部屋を探す。「できるだけ安いところを」と探した結果、見つかった頃にはすでに夜を迎えようとしていた。


「ふぅ……」


硬いベッドに腰を下ろし、薄い毛布を膝の上にかける。


「残りは二百五十五メロウ……パンも買えねぇな……」


ガルムは深いため息をつく。


「はぁ…………明日は早起きするか……」


考えたところで無駄だと分かったガルムは、そのままベッドに横たわって眠りについた。








「やぁ、ガルム。遅いじゃないか」

「遅くないだろ。むしろいつもより早いわ」

「いやぁ、君がいつも遅すぎて感覚が麻痺していたよ」

「じゃあ、さっさとくたばれ」

「お、言うねぇ~。殺すぞガキ」

「そのガキに本気になるなって」


他愛もない会話を済ませ、ガルムは話を切り出す。


「で、今日は?」


ガルムは渋い顔をして、私を見つめてくる。


普段は私から出した指示に、それをノルマとしてガルムが取り組む。そういう生活を続けていた。


ガルムは前の仕事の癖で、与えられた仕事は最後までやり遂げる。だから、たまに出す無理難題もなんとかやり切ってくる。


「うーん……」


さて、どうしたものか。


「…………じゃあ、サンドワームでも討伐してきてもらおうかな。最近は数も増えてきているらしいし」


ガルムは一つだけ笑い、


「サンドワーム……」


さっきより更に顔を渋くし、深く考え込むが「分かった」と言ってガルムは片手を挙げながらギルドのある街の方へ足を進めていった。


「あ、あともう一つ」


一つ、昨日のギルドにいたときに見つけたものを私は急に思い出したため、引き止めるように顔をかけた。


「昨日、街で聞いた噂があってね……」







今日は特に人が多い。

普段ではスカスカな、中心街から外れたこのギルドも多くの冒険者で賑わっていた。それも、普段とは別の賑わい方で。


この雰囲気に、ガルムは嫌悪感を抱いた。


「なぁ、お前も見たか?緊急クエスト」

「あぁ、見た見た。まさかこの国がねぇ」

「だいたい三年ぶりくらいか」

「あー、そういやもうあれから三年も経つんだな」


ふと、ガルムの耳にパーティの会話が入る。


ガルムは話の続きが気になり、そのパーティのいる方を向く。

だが、ガルムの視線に気付くと何処か恐怖の顔を浮かべて去ってしまった。


踵を返し、依頼の貼り出された大型掲示板に足を運ぶ。

そこには、『緊急クエスト ラグドゥとの戦争 兵を求む』と貼り出されている。

ガルムはその貼り紙に反吐が出た。


「どこでも変わらんな……」


一つつぶやき、掲示板にある他の依頼に目を通す。

指定された通り、最近大量発生しているというサンドワームの討伐依頼の用紙を手に取ると、それをカウンターへ持って行く。

受理した後、目撃情報のあるサンドニア王国領東部の砂漠へ向かった。

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