女もすなる○○といふものを、

スロ男

🧸

 自らをなぐさむる際にぬいぐるみを使う女性はことのほか多いのだとか。おそらく適度な弾性と柔らかさがあって、かといって痛みを感じるようなかども硬度もなく、ベッドに転がっていても違和感もなければ変な妄想をあおることもない。


 つまり一言でいえば適切なのである。


 といったような知識を、ひと回り以上年の離れた兄貴の置き土産(捨て忘れられたゴミともいう)の、蔵に放置してあった安いエロ雑誌で仕入れた蜂木蓮夫はちきれんおは真に受けた。


(そうかあ。ぬいぐるみかあ……🧸)


 気になるあの娘にプレゼントしたら、もしかしたら使ってくれるかもしれない。そしたら、もうそれはセセセ……ックション(蓮夫れんおは花粉症だった)と一緒なんじゃなかろうか。


「よっす、ハチオ(渾名)。おまえ、こんなとこで何してんの?」


 見ると、同じクラスの儀有宅優子ぎあるたくやさこだった。蜂木は内心ゲ……と思ったが動揺を悟られないよう両手を肘から先でぐるぐる回しながら

「い、いやべつにSwitch版のゼロ買いにきただけだから!」

「あははナニソレウケる。ベストキッドの真似?」

「ベストキッド? ……アトミックロボキッドなら知ってるけど」

 見ると、優子やさこは年少さんぐらいの男の子の手を引いている。

「もしかして」

「隠し子じゃねーよ! 甥っ子だから」

「いや弟かと」

 赤面する優子に、蜂木ははからずもちょっとときめいてしまった。こんなギャルにときめくとはなんたる不覚!

「ぼっけもんカードゲーム買いに来たんだよな、な?」

 ほがらかにいう優子とは裏腹に、甥っ子はちょっとグズっていた。おそらくカードが買えなかったのだろう。全て転売ヤーの餌食だ。

 蜂木はしゃがみこんで、腰に巻くバッグからカードケースを取り出した。ダブりやカスをまとめたスリープからカードを取り出し、甥っ子に、

「あげる」

「いいの⁉︎」

 素直に喜ぶ男の子に、レア度がどうのかぶりすぎがどうのといっている自分を少し恥じた。価値を決めるのは本来自分以外ないのに。

「ありがとな、ハチオ。おまえ、優しいんだな」

 優子が、普段聞いたことないようなしっとりとした声を出したので、蜂木はどうしていいかわからず声にならない声でうとかあとかいって手を振った。

「ふふ、ウケる。ほら、ちゃんとおにーちゃんにありがとういいな」

「ありがとうおにいちゃん!」

 甥っ子はもうカードの鑑賞に余念がなく、その様子に蜂木と優子は目を合わせて微笑んだ。

「じゃあな」

 優子が蜂木から背を向け、甥っ子の手を引こうとしたとき、思い切って蜂木は言った。

「なあ。儀有宅ぎあるたく、おまえ、ぬいぐるみって使う……?」

「使う……? ぬいぐるみ……?」

 瞬間、優子の眉間にシワが寄ったが、何かに思いついたように緊張が解けると、

「そうね、あたしは使わないけど、地味な委員長とかなら使ったりしてんじゃないの?」

 意図が伝わったのか伝わってないのか、見抜かれたのか見抜かれてないのか、よくわからないまま、去っていく優子と甥っ子を呆然ぼうぜんと見ていた。

 少ししてから甥っ子が振り返って手を振った。


 結局、蜂木はぬいぐるみは買わなかった。代わりにネットで検索してウーマナイザーというのを注文した。

 それを優子にプレゼントして、女性からの初の本気のグーパンを受けるのは、また別の話。

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