つぎはぎ

柊 撫子

宝物

 私が五歳になる前のこと、祖母が綺麗な柄と色の端切れたちを見せて言いました。

「この中から好きなのを選んでちょうだい」

一枚一枚見つめながら、真剣に選んだのを覚えています。

当時の好きな色だったのでしょう。橙色、黄色、朱色……暖色系の端切ればかりを手に取りました。

 それから祖母は私が選んだ端切れを受け取り、ほっこりと笑いました。

「それじゃあ、素敵なお友達を作ってあげようね」

「うん!」

私は端切れを選んだだけなのに、とても誇らしい気持ちでいっぱいになりました。

 そうして迎えた五歳の誕生日。

他の何よりも、祖母からもらったぬいぐるみが一番嬉しかったのを覚えています。

 ぬいぐるみには『みかん』と名前をつけ、とても可愛がりました。

どこへ行くにも一緒で、行く先々でみかんの話をしていたんです。

 私が色んな場所へ持っていくものだから、すぐどこかが取れたり破れたりしていました。その度に祖母や母が治してくれて。

 そうして月日が流れ、私も成長しました。

裁縫を覚え、みかんを自分で治せるようになったのです。

少し経った頃にはみかんに服を作る程に上達しました。

 それから随分経ち、私もすっかり白髪と皺まみれ。

あの頃の祖母と近い歳になりました。

もう何十年も昔のことなのに、みかんと出会った日はまるで昨日のことのように覚えています。

 ふと本棚を見ると、本の片隅に座るみかんが目に入ります。

今はもうすっかり古びてしまって、飾るだけになったみかん。

また一緒に出かける日は来るのでしょうか。


「ねぇねぇ、これなぁに?」


 小さな手で机の箱を指差して、私を丸い目で見つめています。

この子もそろそろ五歳。あの頃の自分を思い出すようです。

 私は箱を手に取り開け、中身を見せました。箱の中には色取り取りの端切れが。

「わぁ!」

目を輝かせ、体を弾ませました。

私は嗄れた声で言います。

「さぁ、この中から好きなものを選びなさい」

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つぎはぎ 柊 撫子 @nadsiko

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