第13話『決闘』

「ねぇ矢守……」

「うん。黒死館だ」

対峙するは黒死館の進玖と赤煉瓦の赤羽。対峙する二人を見守る美亜。階段の所から覗き見る供物の矢守と亀田。供物事務所の二人は最上階まで登ってきたところで、ターゲットの白鯨はくげい社社長が死亡していたことを確認して戻ってきたところだった。不可解な死体であった。斜めに綺麗に分断された身体に、何度も切りつけたような跡がある。まるで、刀を振るう練習にでも使われたように。

「とりあえず。面倒な状況だね。三つの事務所が一箇所に集まってる」

「ただ、誰かが持ってるわけだね?」

「夢の核を」

それを奪ってやろうと考えるのは二人とも同じだったろう。

「こいつと戦うことに何のメリットがある!」

突然の藍田の死亡に赤羽は取り乱している様子だ。美亜へ向かって声を荒げる。美亜は目を細めた。

「ここでお前がこの決闘を蹴ったら、そいつの死が無駄になるだろう」

ズボンのポケットに手を突っ込むと、その中の、虹色に淡く輝く石を掲げた。

「……!」

「夢の核だ」

美亜がその名を言ったその瞬間、亀田が走った。

「あ、待って、亀田……!」

美亜は夢の核を上へ放り投げ、抜刀。無鉄砲に突っ込んできた亀田を左右に分断した。股から脳天までぶった斬る。

「この阿呆のようになりたくなかったら、直接奪おうなど考えるな」

矢守は茫然と立ち尽くした。赤羽は戦慄する。刀を抜いたのも、振り上げたのもまるで見えなかった。そして、刀が血に濡れたようにも見えない。あまりにも早すぎる。しかし、幸運なことだと思った。戦うのがこれではなく、目の前にいるチビだということに。赤羽は目の前の存在を凝視する。

「む、なんであるか。赤羽殿!!!」

「おい。美亜と言ったか。こいつと決闘して、勝ったらその夢の核がもらえるんだな?」

「ああ。そうだ。レッデストジュースも、感情増強剤も持ってるだろ」

「エモーショナルアンプルファイアのことか?こんなののために?」

「む、こんなのとはなんであるか」

進玖は頬を膨らませて幼稚に怒りを表現して、赤羽のことをじっと見つめた。赤羽はぷっと吹き出す。こんなチビなんて、大体数分も使わずに終わるはずだ。

「では、私の合図ではじめろ」

「わかった」

「了解だ!姉上!!!」

騒がしい声の後は、静寂が訪れた。

「用意」

対峙する二人は片方の足を後ろへ滑らせ、相手の方に飛んでいけるように身構える。

「始め」

何が起こったのか。赤羽にはまるでわからなかった。気づいたときには目線の先にいたそれは存在しなくて、でも、それは自分の腕を斬ろうと自分のすぐ隣まで来ていた。たった刹那秒のことだった。刃を見たとき、痛みが遅れてきた。

「くっ、がはっ……!?」

「力が足りない!そして首をよく狙え!」

「ああ!次はしっかりと狙うぞ!!!」

赤羽はその問答の隙にナイフで進玖を刺す。しかしそれは痛がる様子も見せないまま、進玖は刃の向きを変え、腕の肉を削いだ。痛みが来るのを予測できれば声を堪えて痛みを呼吸で和らげるのは簡単だった。よろめきながら立ち上がると、前の方に刀を構える進玖の姿がある。腹部に刺し傷があるのに、怯む様子はない。むしろ顔は笑顔のままである。

「ああ、赤羽殿!!赤羽殿はその程度であるか!!!」

相手は確実に楽しんでいる。こちらが必死になっているというのに。もうこれを使わざる負えないらしい。

「……わかったよクソッタレが!」

二本のレッデストジュースとエモーショナルアンプルファイアが赤羽の手にはあった。

「ほう……」

面白そうにそれを見つめる美亜。赤羽はレッデストジュースを首に注射した。効果が出るよりも先に、エモーショナルアンプルファイアも打ち込んだ。進玖が刀を振り下ろさんとまた素早く接近した。そして、その刀が振り下ろされる前に、ナイフで受け止めた。

「おお!見極められたぞ!!」

「チッ……殺す!」

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裏路地街の夢見鳥 東 南我 @taida_sosaku395

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