公爵令嬢のぬいぐるみ

@mia

第1話

 公爵令嬢リリーは優秀だった。

 彼女が二歳の時に亡くなった母親の分も、父親である公爵が愛情と金を注ぎ育てた。  

 十歳の時に同じ年の第一王子の婚約者となった。

 王立学院に入ると彼女は学問魔法礼儀作法全てに秀で、完璧令嬢と言われた。

 彼女がいつも抱いているうさぎのぬいぐるみだけが、彼女の可愛気だと陰口を叩かれた。

 リリーがぬいぐるみをいつも持ち歩いていたのは、それが亡くなった母の手作りのぬいぐるみだったからだ。

 彼女を産んで体が弱ってしまった母親は自分の死期を悟ったのか、娘のためにぬいぐるみを作った。

 娘の兄である息子にかけた愛情を、娘に与えることができないことを分かっていたのだろう。

 リリーもそんな母親の愛情を分かっていて、周りがなんと噂をしようと気にしなかった。

 翌年、状況が変わった。

 元平民の男爵令嬢に婚約者である第一王子達が関わるようになったからだ。

 リリーは男爵令嬢や王子の側近達、さらには王子本人にも注意をしたし、父親の公爵も王子の状況を国王に報告した。しかし、学生時代だけのことなので大目に見るようにとしか言われなかった。

 王子達の態度が変わらぬまま時間だけが流れ、後一か月でリリーたちが卒業を迎えると言う時期にことは起こった。

 王子とその側近、男爵令嬢が学院は退学になったのだ。

 退学などは恥ずべきことで、もう貴族社会では生きてはいけない。

 退学の理由は、公爵令嬢を冤罪で陥れ婚約破棄を企んだことだった。その挙句、国外追放まで目論んでいたらしい。

 それが公爵の逆鱗に触れた。

 ただ学園の生徒や教師たちは、噂にすらなっていなかった婚約破棄を公爵がどうやって知ったのか不思議に思った。


 公爵令嬢のいつも抱いているうさぎのぬいぐるみ。

 なんでも聞こえる耳を持ったうさぎのぬいぐるみ。

 第一王子達の婚約破棄の企みも、第一王子の廃嫡を国王に認めさせる秘密も聞いていたうさぎのぬいぐるみ。

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