自分がぬいぐるみだって気づいてないぬいぐるみ
下垣
多分絶対恐らく予想されるだろうからオチを先に言う。主人公のクマ君もぬいぐるみだ
突然だが、僕には友人がいる。彼の名前はカバ君だ。とても気のいい奴なんだけど……
「やあ、クマ君。今日もいい天気だね」
「あ、ああ。いい天気だね」
そういうカバ君の体には縫い目がついている。そう、彼はぬいぐるみなのだ。しかし、自分では気づいていない。
しかし、僕はそろそろカバ君に真実を知って欲しい。今日こそは言うんだ……!
「あ、あのさ……カバ君」
「ん? どうしたんだい? クマ君」
「カバ君は“ぬいぐるみ”だったら何が好き?」
カバ君がぴくって反応した。まずい。ストレートすぎたか?
「えっと……“ぬいぐるみ”だったら、“クマ”が良いかな」
「へー。そ、そうなんだ」
おいおい、クマを前にしてクマがぬいぐるみだなんて言うなよ。ビックリするだろうが。
「ところでクマ君。クマ君は自分が“本当の動物”じゃなかったらどうする?」
ん? 急になに言ってんだ。思わず固まってしまう。
「あ、いや。例えば、例えばの話だよ? 例えば、クマ君が“本当の動物”じゃなくて、そっくりの……えっと、“模型”かなにか。そう、クマの形をした“ナニカ”だったらって……」
「まあ……それはそれでいいんじゃないのかな? 本物だろうが、偽物だろうが、僕は僕だし」
「そ、そっかぁ……」
カバ君がなぜかホッとしている。この質問に何の意味があるんだ? でも、僕もそろそろ切り出さないとな。できるだけカバ君を傷つけないように、気づかせるんだ。
「カバ君ってさ……“鏡”を見たことある?」
「“鏡”……?」
ストレートすぎたか? 流石に鏡を見れば自分の縫い目に気づくだろ?
「見たことないかな」
「そっかー。ないかー」
「ところで、クマ君。クマ君ってさ、“野球ボール”見たことある?」
「野球ボール?」
「うん。ボールに“縫い目”があるんだって」
「へー。変わってるね」
「いや、クマ君。僕は変わってると思わない。“縫い目”があってもいいじゃないか。縫い目があろうとなかろうと“友達”になれる。僕はそう信じているよ!」
うわ、こいつ。野球ボールと友達になりたいのか。引くわー。でも、同じく縫い目があるもの路線で詰めるのは良いかもしれない。
「カバ君。そういえば、友達のペンギン君がさ」
「うんうん」
「大けがしたらしいよ」
「え! それは大変だ!」
「10針“縫う”けがをしたんだって。まあ、生きていれば体に“縫い目”ができることくらいあるよ。だから、僕は縫い目があったって気にしないからね。カバ君」
「クマ君……! そ、そうだね! 縫い目があったって別にそれはそれ。これはこれだもんね。ハハハハハ!」
「HAHAHAHAHA」
◇
唐突だけど自己紹介させて欲しい。私はウサギ。看護師をしているの。私には悩みがあって――
「なあ、ウサギ君」
「なんですか? ライオン先生」
「先日、手術した患者。ペンギン君のことは覚えているか?」
「ええ。体に縫い目があった患者さんですよね」
ライオン先生にも縫い目がある……多分、先生はそれに気づいていない。
「彼の体の中に綿が詰まっていた」
「は、はあ……」
「ウサギ君。私は体に綿が詰まっていようと気にしない。体に縫い目があろうがいいじゃないか」
「そ、そうですか……!」
なんか体が痒いな。ん? なにこの糸。どっから出ているんだろう。引っ張ってみよう。
「あ! ま、待てウサギ君! その糸を引っ張っては……!」
私の意識はそこで途絶えた。次に私が目を覚ました時、先生は糸が通った針を持っていた。
自分がぬいぐるみだって気づいてないぬいぐるみ 下垣 @vasita
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