海を知らないサメ、海を知るピラニア
武州人也
砂浜のベンチでぬい撮り
ざざーん、と波が寄せている。冬の夕方の砂浜に、人はほぼいなかった。
砂浜のベンチに腰かけた私は、ショルダーバッグから小さいシュモクザメのぬいぐるみを取り出した。中学生の頃、山梨の水族館で親に買ってもらったものだ。
そこには淡水魚しかいなかったのに、なぜかサメのぬいぐるみが売っていた。私はこのぬいぐるみに愛着が湧いてしまって、実家を出たときもこれを持ってきてしまった。
(ホラ、あれが海だよサメくん)
心の中で、私は長年連れ添った私室の相棒にそっと語りかけた。内陸の水族館出身の、海を知らないシュモクザメ。それが今、海を目の当たりにしている。そんな光景が、なんだか面白い。
私はベンチにぬいぐるみを置いて、自分自身は席を立った。そしてベンチの後ろに回ってしゃがみ、スマホのカメラでパシャリ。青い海を背景に、シュモクザメを撮った。
角度を変えていくつか撮影した後、私は腕に吊るしたビニール袋から魚のぬいぐるみを取り出した。さっき水族館の売店で買った、ピラニアのぬいぐるみだ。先輩のシュモクザメより少し大きい。実家にはピラニアの水槽があるけど、彼らは元気にしているだろうか。
ピラニアは淡水魚だけど、海沿いの水族館で売っていたから、きっと海を知っている。サメなのに海を知らないのと正反対だ。ピラニアとシュモクザメを向かい合わせに置いて、スマホでパシャリ。
「あー、ひなちゃんお待たせ。トイレ混んでて」
めいちゃんがパタパタと駆け寄ってきた。私はぬいぐるみを二つともビニール袋にしまった。
小学生時代からずっと付き合い続けているめいちゃんと、今日もまた水族館を訪れたのだった。一緒に水族館に来るの、もう何度目だろうか。
「海見てるとさ、サメが出てきて大騒ぎに! とか想像しない?」
「わかる。ひなちゃんにそういう映画ばっかり見せられたから」
ベンチに並んで座りながら、私たちは笑い合った。
海を知らないサメ、海を知るピラニア 武州人也 @hagachi-hm
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