アオハルぬいぐるみ

スズヤ ケイ

アオハルぬいぐるみ

「……あー、ちょっといいか」


 学校からのいつもの帰り道。

 彼女と一緒に並んで歩いている時。


 俺は周囲に人がいないのを確認してから彼女に切り出した。


「ん、何? 改まっちゃって」


 彼女は首を傾げながら、上目遣いに俺を見上げる。

 俺とは身長差がずいぶんあるので、自然とそういう仕種になってしまうのだが、俺が密かに大好きなポーズの一つだ。


 それに目を奪われそうになるのをこらえながら、本題を進めるべく俺はカバンから一つの紙包みを取り出した。


 カバンにギリギリ入っていた、一抱え程のいびつな紙包み。

 できるだけお洒落な柄の紙とリボンを選んで、自分でラッピングしたものだ。


「……これ。バレンタインのお返し」


 俺は口下手なので、どうしてもこういったぶっきらぼうな言い方になってしまう。その度に彼女に嫌われないか不安になるのだが、そんなことはお構いなしに彼女の目が輝いた。


「おお~! こんな大きいのもらっちゃっていいの? 中身は何? 開けていい?」


 矢継ぎ早にまくしたてると、返事も聞かずに丁寧な仕種でラッピングを剥がし始める。


 そして中身が露出するに従って、その手の動きが緩慢になってゆく。



 もしかして、失敗だったか……?



 失望されたかと思って彼女の顔を覗き込むと、その表情は驚愕に満ちていた。


「嘘……私がぬいぐるみを集めてるって覚えててくれたの?」


 ラッピングの中からは、不格好な猫のぬいぐるみが顔を覗かせていた。


「お、おう。毎年手作りチョコもらってるから、俺も手作りしてみた……んだけど。ぬいぐるみって思ったより難しくてさ。こんな下手くそなのいらないよな、やっぱり」


 俺は絆創膏ばんそうこうだらけの手で彼女からぬいぐるみを回収しようとしたが、ふいとその手は避けられてしまった。


「全っ然!! とっても嬉しいよ!」


 そう言って、彼女はぬいぐるみを抱きしめ飛び切りの笑顔を見せてくれた。


「君のお手製っていうだけで可愛さ百倍! こういう不細工な子もありだしね~」

「おい、はっきり不細工って言ったな?」

「いえいえ? ブサカワって意味ですよ?」


 減らず口を叩く彼女に、呆れと安堵の混ざった溜め息を吐く俺。


「……喜んでくれてよかった。ああ、そうだ。一応不興だった時に備えてクッキーも買っておいたんだが、食べるか?」

「食べる~! あ、でも今私は両手が塞がっています。分かるね?」

「はいはい、お嬢様」


 何故かドヤ顔で催促する彼女の口元に、俺は苦笑しながらクッキーを差し出した。


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アオハルぬいぐるみ スズヤ ケイ @suzuya_kei

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