千切られて繋がる

白部令士

千切られて繋がる

 僕の通っていた中学校には、運動部しかなかった。だから、文化部に憧れのようなものがあり、高校では文化部、文芸部に入部しようと決めていた。読むのも書くのも好きだったから、文芸部。入学して初めてのホームルーム後、担任に、ラグビー部顧問からの勧誘の手紙を渡されても僕の想いは変わらなかった。


 文芸部は部員の殆どが女子だった。顧問も女の先生で、竹島たけじまカズミといった。職員室の彼女のところに入部届を持って行った際には、笑顔と握手で迎えられた。

「男の子は少ないから。期待してるよ」

 と、竹島先生に握手した手をしっかりと握り込まれる。


 四月半ば、文芸部の皆を不安がらせる出来事が起こった。部室として使っている空き教室に置いてあったマスコットのウサギのぬいぐるみ――ぶんぶんウサちん――が、手足頭尾と千切り取られ、バラバラにされていたのだ。そして、僕はこの件に心当たりがあった。


 僕は体育倉庫裏に行った。ラグビー部顧問――木場きばというのだが――から再度手紙を寄越され、強い調子で呼び出されていたのだ。木場先生は、部員と思われる生徒三人を伴って既に来ていた。

「ぬいぐるみをバラバラにしたのは先生ですか」

 僕は可能な限り抑制して訊いた。

「ぬいぐるみなんて、学校には要らないでしょ。女臭いでしょ」

 と、木場先生は応えた。

「文芸部は女ばかりてつまらんでしょ」

 薄い唇で笑う。

「男は、男同士、躰をぶつけ合って発散するのがいいでしょ。何かある前にラグビーに入るのがいいでしょ」

 指示があったわけでもないのに、生徒三人がにじり寄ってきた。

 僕は身体を僅かに右に動かした。

 体格で負けてないし、中学では柔道部だったのだ。襲って来られたとしても、一方的にやられたりはしない。数の少ない分、こちらから仕掛けた方がいいかもしれないが――。

 その時。

「そこまで」

 と、鋭い声が掛かる。現れた長ラン姿に見覚えがある。中学の時の部の先輩、田所たどころ先輩だ。

「また、ラグビー部に無理矢理入れようとしていますね? いい加減、問題にしますよ」

 田所先輩は、木場先生らを睨めつけた。

「丁寧に説明しようと思っただけでしょ。いい男が勿体ないでしょ」 

 言いながら、木場先生は三人の生徒を連れて立ち去った。


 田所先輩の話では、うちの高校はスポーツ特待生制度がないので運動部で行き過ぎた勧誘があるのだという。今、先輩は応援団Bに所属しており、応援団Bは文化部帰宅部の自主自立を応援する為に活動しているそうだ。

「先輩。それにしても行動が早かったですね」

「文芸部のウサギのぬいぐるみだけどな。あれ、俺がカズミちゃんにあげたものなんだ。俺、去年の春は手芸部だったから。木場先生らとちょっとやりあって退部したんだ。カズミちゃんから文芸部の新入部員名簿を見せてもらってピンときたってわけだな」

 田所先輩はやんわり笑った。ちょっと懐かしい、頼もしい顔だった。

               (おわり)

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千切られて繋がる 白部令士 @rei55panta

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