おたくの「ぬいぐるみ」は安全ですか?

げこげこ天秤

『ふたりはヒロイン Eternal Soul』

 令和五年三月三日金曜日。

 大学生は春休みだ。




 大学二年生となっていた藤花とうか渚咲なぎさは、この春は地元である鳥取に帰省していた。そして今日は、久しぶりに渚咲なぎさの家で「おうちデート」である。


「いつみても……物がいっぱいだね」

「まあ、入って入って。好きな場所に腰掛けてー」


 そう言われても、と藤花とうかは溜息をつく。8畳くらいの部屋の筈だが、物が多すぎて、足の踏み場は2畳あるかないか。二人が腰掛ければもう定員オーバーである。仕方ないから、ベッドをソファがわりにして腰を落ち着かせる。


 断っておくが、決して部屋の主である渚咲なぎさは掃除が苦手というわけではない。たしかに、何も知らない人がこの部屋を訪れたとしたら、散らかっているように見えるだろう。しかし、渚咲なぎさ本人からすれば、整理された部屋であり、実際に、どこに何が置かれているかを彼女は正確に把握していた。


「おっ、H3が再挑戦だってさ!! 今度は上がるといいなぁ……」

「そうだね」


 暗がりで、デスクトップPCに表示されたネット記事を二人で覗き込む。渚咲なぎさは宇宙が大好きな女の子だった。そして、この部屋はそんな渚咲なぎさの大好きでいっぱいだ。天井から吊るされた太陽系のミニチュア。隅に収納された天体望遠鏡。宇宙に関するものだけじゃない。音楽も好きだから、キーボード、バイオリン、サックスも置いてある。人生ゲームや石のコレクションまで、ここはさながら骨董品店。渚咲なぎさに言わせれば「物置」。そう、彼女は自室を寝る場所+保管庫くらいにしか思ってなかった。


 けれど、ここは渚咲なぎさの大好きで詰まっている。藤花とうかはこの部屋にいると、それだけで渚咲なぎさに包まれている感じがした。


「……あれ?」


 そこで、藤花とうかは違和感を覚えた。前に来た時にはなかった物が増えている? ベッドの枕元に異物が混ざっているような気がして、視線をやる。


「これどうしたの?」

「? あれ、こんなの持ってたかなぁ?」


 それは。

 トリの「ぬいぐるみ」だった。




 *****






 視神経リンク:接続開始。

 メモリー:異常なし

 センサー同期:正常

 システム:オールグリーン。






 ヒイイィィィィハァァァァーッ!! ついにやってやったぜ!! オレの名前? おっと、そいつは秘密だ。だが、自己紹介はしてやってもいい!!


 そうだ!! オレは、今回のKAC20232のお題を「ぬいぐるみ」にした張本人よ!!

 

 だから、どうしたって? まあ、聞けよ。お題が「ぬいぐるみ」となったなら、恐らくきっと「ぬいぐるみ」を物語のなかに登場させるだろ? そこがミソよ!!


 運営はすでに、オレたちが「ぬいぐるみ」になることで、物語のなかに入り込む技術の開発に成功している。だから、各登場人物と触れ合う擬似体験ができるってわけさ!!


 アァン? 何が目的なんだって? そりゃあ、誰かきっと百合作品を書くだろ? ……そこに挟まるんだよ!! 合法的にナァ!!


 奴らはきっと「ぬいぐるみ」を抱く!! その中身がオレとも知らずに!! もちろん、外見からすれば、ただ「ぬいぐるみ」を抱いているようにしか見えない。当然、彼女たちが「ぬいぐるみ」の正体に気がつくこともない。これぞ、完・全・犯・罪!!


 だが安心しろ。この計画のなかでは、誰も不幸になることはない。彼女たちはオレを抱いてフワフワ気持ち良くなれる。オレもおっぱい様に挟まってイイ気持ちになれる!! みんな幸せで、みんなハッピーになれる!!



 そうこう言ってたら……キタキタキタァーッ!! 藤花とうかのおっぱいキタアアァァァ!! 最高のフォルム。最高の触感。まさに理想的なOPPAI!!



 さぁ、あとは抱き合うんだ!! それで、オレの計画は無事達成……さ……れ?




「先輩!! いますぐ、そのクソ野郎から離れてください!! そいつは変なおじさんです!! いますぐ焼き捨ててください!!」   




 *****




 闖入者がいた。


 名前は千遥ちはる。二人の愛すべき後輩である。お互いに幼い頃からの仲であり、二人は彼女に何度も窮地を救われたことがある。


 

 ここで、初めて本作を読まれた方は困惑されるだろうから、少し注釈を入れたい。彼女たち三人は、げこげこ天秤『昭和四十一年、東京より。』に登場するキャラクターである。げこげこ天秤が最も愛する百合であり、そして守りたい少女たち。彼女たちはたくましく、そして勇敢に、どんな悪にも立ち向かっていくだろう。



 かくして、悪は裁かれた。人の物語に侵入した如何わしい鳥は火炙りに処された。……何はともあれ、これぞ「ONE TEAM」の成せる技であった。













 そうして今日もまた。

 渚咲なぎさの部屋の隅で。


 語り部としてカエルの「ぬいぐるみ」が、彼女たちのことを見守っていr

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