先日ぬいぐるみていただいた助けです

闇谷 紅

こんな時間に

「おいおい、何だよ……ったく、こんな時間に」


 いいところだったのにとパソコンで視聴していた動画を一時停止すると、俺は玄関に向かった。呼び鈴がなったのだ。


「夜も九時回ってたよな――」


 届け物が来るような予定はなく、帰ってくるような家族も居ない。パソコンの画面隅っこに表示されていた時刻を思い出し、それこそこんな時間に呼び鈴を鳴らされる心当たりがなく、訝しむ。


「はーい」


 とりあえず今も鳴っている呼び鈴に返事だけして廊下を進み、玄関へ。ドアの脇の曇りガラスの先は対人感知でつく明かりによって少し明るいがそこに人影はなく。


「あの、夜分遅くすいません。先日ぬいぐるみていただいた助けです」


 呼び鈴を鳴らした相手はドアの向こうにでもいるんだろうなと思ったところで、ドアの向こうから投げられたのが、そんな言葉だった。


「は?」


 百歩譲ろう。百歩譲って先日助けていただいたぬいぐるみならまだわかる。二日ぐらい前に近くの公園の木の枝に引っかかってたヤツを下ろしてベンチの上に置いて帰ったことがあったのだ、が。


「ですから、先日ぬいぐるみていただいた助けです」


 バグってやがる。


「ぬいぐるみてって何だよ! 助けって何だよ!」


 訳わかんねぇよ。


「ナイスツッコミです」

「ナイスじゃねぇ! つーか、まともな日本語使えよ!」


 しれっと動じず返してくるのが腹立つ。こう、発言おかしかったし、相手にしちゃいけない怪異系ならもうアウトだが、これを黙っていられようか? 無理だ。


「それを使うなんてとんでもない」

「なんでだ?! つうか、拒否?!」


 何が拒絶させたってんだ。


「はぁ、もういい。めんどくさいから帰ってくれ」


 こう、声の主が本当にあのぬいぐるみなら恩返ししてくれるんじゃないかなんて考えがチラッとよぎったが、ここまでおちょくられて相手をし続けたくもない。


「動画の続き見よ」


 嘆息し踵を返した俺を誰が責められようか。

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先日ぬいぐるみていただいた助けです 闇谷 紅 @yamitanikou

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