ベッドの上の彼女はぬいぐるみを抱えて眠りこける

さばりん

ココちゃんは寝顔も可愛い

 休日、今日もクラスメイトのココちゃんに部屋のお掃除を手伝ってもらっていた。


「悪いな、いつも手伝ってもらっちゃって」

「いえ、橋岡君の何よりです」


 ココちゃんはニッコリ笑顔でそう答える。


「何かお礼に今日は出前を頼むよ」

「そんな……申し訳ないですよ」

「いやいや、いつもお世話になりっぱなしじゃ悪いし、何かさせてくれ」

「そこまで言うなら……」


 ピンポーン。

 とそこで、俺の家のインターフォンが鳴り響く。


「誰だろう?」


 俺が不審に思いつつ、インターフォンのカメラを確認すると、そこに映っていたのは、驚きの人物だった。


「裕樹! お母さんが来たわよ!」

「げっ!? なんでいるんだよ⁉」

「たまたま近くで用事があったからよってみたのよ。裕樹がちゃんと一人暮らし出来てるかどうか確かめるためにね! ほら、とっとと開けなさい!」

「ちょっと待ってろ。そっちに行くから」

「いやよ。合鍵使って入っちゃうもんねぇー」

「あっ、おいこら!」


 母親はスペアキーを使って悠々とマンションのセキュリティを突破した。

 家にはココがいる。

 こんなところを母親に見られたら、ひとたまりもない。


「どうしたんですか?」

「悪い、今母ちゃんが家に突撃してきた」

「えぇ⁉ 大変じゃないですか! ちゃんともてなさないと」

「そうじゃなくて! 悪い、ちょっと俺の部屋に隠れててくれないか?」

「えっ……でも……」

「いいから頼むって!」

「分かりました。橋岡君がそこまで言うのなら」


 俺はココちゃんを無理やり部屋に押し込んだ。

 直後、ピンポーンと再びインターフォンが鳴り響く。


「祐樹ー! 開けなさい!」

「あぁもう鬱陶しいな」


 俺は玄関へと向かい、施錠を解除する。

 ガチャリと扉を開くと、お母さんが颯爽と現れた。


「やっほー祐樹! 久しぶりじゃない」

「おう、久しぶりだな」

「早速だけど、ちゃんと一人暮らし出来てるか、抜き打ちチェックさせてもらうから」


 そう言って、母ちゃんは楽しそうに俺の家へと上がり込むと、部屋が片付いているかのチェックを始めた。

 リビングを一通り眺め終えて、感心したような声を上げる。


「ふぅーん。随分と綺麗に片付けてるじゃない」

「ま、まあな」


 これも全部、ココにやってもらってるんだけどな。


「でも、ここはどうかしらね?」


 母ちゃんはにやりと悪い笑みを浮かべると、俺の部屋の扉へと向かって行く。

 俺は咄嗟に立ちふさがり、通せんぼする。


「あらー? その様子だと、何か見られたくないモノでもあるのかしら?」

「いくら母ちゃんでも、プライベートはわきまえて欲しいものでね」

「あら……残念だわ。でも年頃の男の子だもんね、仕方ないわよね」


 諦めてくれたことにほっと胸を撫で下ろす。


「隙あり――」

「なっ⁉」


 矢先、俺の不意を突いて突破すると、そのまま思い切りよく部屋を開け放つ。


「あぁ、ちょ……」


 しかし、もう手遅れだった。

 ベッドに背中を預けるようにして、ココちゃんはクッションを抱きながらうとうととしている。

 まるでその姿は、ぬいぐるみのように可愛い。


「ふぅーん。そう言うことだったのね。アンタも隅に置けないわね」

「だから嫌だったんだ」


 無事に母ちゃんに、ココが定期的に俺の部屋の家事を手伝いに来てくれていることがバレました。

 そして案の定、彼女だと勘違いされたのである。


 にしても、ココのあの無防備な姿。

 可愛すぎかよ。


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