02:思い出のぬいぐるみ

矢木羽研(やきうけん)

テーマ「ぬいぐるみ」

 よく晴れた休日。日はまだ正午の少し前。僕は街道に車を走らせていた。目指すは本日オープンの古本屋、もとい総合リサイクルショップである。いや、オープン当日の目玉商品は新発売のトレーディングカードのようなので、もはやリサイクルショップですらないのかも知れない。ともかくも、黄色い看板が目印の日本有数の総合ホビーショップへと僕は向かっていた。


 道は空いていたので思ったよりも早く着いた。既に人だかりができているが、やはり大部分はカードが目当てのようだ。このうちの何人が自分や家族で遊ぶために(つまり転売目的でなしに)買うんだろうかと考えると、少しうんざりした気分になる。僕はそんな彼らを後目に、店の奥へと向かった。


 いつも通り、まずは文庫本でも物色しようかなと思った矢先、おもちゃ売り場のワゴンに目が留まる。ゲームセンターの景品でよく見かける小型のぬいぐるみが山と積まれていたのだが、その中の一つを見て思いがけない懐かしさに包まれた。それはトウモロコシを抱えた狐のキャラクターのぬいぐるみ。確か子供の頃、北海道旅行のおみやげで買ってもらったものだ。そうだ、僕はこの子が大好きだった。いつの間にか無くしてしまい、思い出すこともなくなってしまったけれど。


 ワゴンの周囲には何人か親子連れがいたが、誰もこの子には興味を示さないようなので、僕は遠慮せずに買い物かごにいれた。ついでに北海道旅行のガイドブックを何冊か見繕う。今年の夏休みに久しぶりに行ってみよう。それが無理なら、せめて気分だけでも味わおうと思ったのだ。


 クーポンを全て使うと2000円でお釣りが来た。普段ならもう少し物色するところなのだが、今はドライブを満喫したい気分だった。空は晴れ渡り、爽やかな春の風が吹き抜ける。夏の北海道もこんな感じなのだろうか。僕は助手席に狐の子を乗せ、あてもなく車を走らせることにした。

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