本屋へ行くもう一つの楽しみ方

那由羅

需要があるのか厄介物か

 その本屋は、商業施設を四割程度占めている店だ。

 駅とも繋がっているから入りやすく、ジャンルも幅広く取り揃えており、頻繁にレジ前に長蛇の列が出来るので、人気の店と言える。


 結構ニッチなジャンルの本も置いてあったりするので、『もしかしたらあるかも?』と好奇心を胸に探してみたら、見つけてしまったのだ。


 ───伯父の、本を。


 伯父は別に作家という訳ではない。と言うか、私もどんな事をしている人なのかはあんまり知らなかったりする。

 ただ、血縁である母曰く『とにかく多趣味だった』らしい。


 遺品整理の際には、カメラ、古銭、工具、肥料、食器、原稿用紙がごっそり出てきて、『結構海外旅行にも行ったんだ』『飲食店でも立ち上げるつもりだった?』『何でここに賽銭箱が…?』と、伯父の多趣味ぶりに首を傾げたものだ。


 件の本も、その遺品の一つ。

 伯父所有の倉庫には目一杯ダンボールが詰め込まれており、その中身が全て件の本だったのだ。

 内容は、文章と写真半々くらいの山岳信仰系写真集のようなもの、とだけ紹介しておく。

 何故か、幼少期の母を含めた家族写真を最後の方に載せており、自費出版らしさ満載だ。

 書籍はこれ一冊のみを世に送り出したらしく、昭和中~後期のバブリーな道楽の産物を感じさせる一品だ。


 ───で、例の本屋に話が戻る訳だが。


 本屋にあるという事は、店員がチョイスして取り寄せたという事になる。

 いや、置き場に困り、系列店を転々としている厄介物なのかもしれないが。


 何にせよ、作者とそこそこ顔も合わせた事がある親戚としては、

『昭和の遺物だよ?何で取り寄せたの?誰用なの?買う人いるの?』

 とか、

『ああ、貴重な本の売り場に、親戚の書籍がご厄介になって…』

 などと、頭を悩ませてしまうのだ。


 ───しかし、これも本屋の楽しみ方の一つかも、と思う事もある。


 売り場に残っているか?残っていないか?売られていったか?バックヤードに引っ込んだか?と、あれこれ想像するのはちょっと楽しい。


 本来の本屋の楽しみ方とは間違っているだろうが、書籍を世に放っている者を親戚に持つ身としての、ちょっとした楽しみには違いない。

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本屋へ行くもう一つの楽しみ方 那由羅 @nayura-ruri

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