ひつじの赤ちゃん 🐑

上月くるを

ひつじの赤ちゃん 🐑





 卒業式がすんで、春休みに入りました、四月からぼくは小学三年生になります。

「ついこのあいだ入学式だったのにねえ」かあさんは何度も同じことを言います。


 メガネの奥の目も鼻も赤くなって、あわててエプロンのポケットをさぐります。

 入っているのは赤や青や黄色や緑のラメの包み紙がキラキラするチョコレート。


 もうすぐ保育園に入るいもうとのエリカは「やった~!!」大よろこびします。

 三歳児としては小柄なエリカを、出窓のお内裏さまがニコニコ見守っています。


「モールで一番の高級品をはずんでくれちゃったんだって」かあさんのひとつ話は、同居を勧めても「みんなの故郷を守る」とがんばっている田舎の祖母の代弁らしく。




      🎎




 この時期、とうさんは忙しいのです、なんせ牧場のひつじの出産ラッシュなので。

 獣医師のとうさんは種畜牧場に泊まりこみ、仔ひつじたちの世話に明け暮れます。


 着替えに帰って来たとうさんに一緒に連れて行ってもらったら、うわ~、すごっ!!

 黒や白や灰色の仔ひつじたちが、柵のなかをぴょんこぴょんこ跳びまわっていて。


 いつも思うんだけど、動物の赤ちゃんって、なぜこんなに早く立てるんだろうね。

 人間の赤ちゃんは、たとえばエリカだって、ずいぶん遅くまで歩けなかったのに。


 

 ――チュパ チュパ チュパ チュパ……。((((oノ´3`)ノ



 わあ、くすぐったい、どうしてぼくの指を吸うの? おっぱいとまちがえてんの?

 あ、そっか~、かあさんからもらったチョコの匂いがするんだ、ね、そうでしょ?

 

「かわいいだろ? まるで仔ひつじのぬいぐるみだろ? いまのうちだけだけどね」

 白衣の着ぐるみみたいな(笑)場長先生が、いつの間にかそばに立っていました。


「じきにイヤイヤ期に入り、自己主張するようになるんだよ、人間の子と一緒でさ」

 とうさんの上司は口はアレだけど(笑)気持ちはとてもいい人なんだって。(*'▽')




      🥼




 おおらかな自然&人間や動物に囲まれたぼくは、いもうとのエリカを思いました。

「ごめんね、わたしが丈夫に産んであげられなくて……」目をうるませるかあさん。

 

 たしかにエリカは、同じ年ごろの子とくらべると、少し、ううん、相当に小柄で、なにかといえば熱を出したり、おなかをこわしたりするけど……だけど、大丈夫さ。


 仔ひつじたちだっていろいろなように、人間の子どもだっていろいろなんだから。

 かあさんは保育園でみんなについていかれるか心配するけど……大丈夫だと思う。


 それに……もしなにかあったら、エリカ、にいちゃんが助けに駆けつけるからな。

 尊敬するとうさんゆずりで義を尊ぶにいちゃんは、まるっとエリカの味方だから。




      🌙




 そうしているうちにも、黒や白や灰色の仔ひつじのぬいぐるみたちは空も雲も風もみんな大好きというように、さも愉快そうにぴょんこぴょんこ跳びまわっています。


 それを見ているうちに、ぼくはなんだか泣きたいような気持ちになっていました。

 なあ、きみたち、大人になっても、やさしい三日月のような目のままでいろよな。




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