第10話 ギルドと電球


 なんとおれの弁当にカビが生えて毛むくじゃらに…じゃなくてマジで何やってんだこいつは!


「いつの間に入り込んだ!?中の荷物はどうした?!」


「じゃまだからおいてきたにゃ」


「弁当は?!」


「おいしかったにゃ」


「何故付いてきた?!」


「おねえちゃんのためのおくすりにゃ、だまってみてたらフグリがちぢむにゃん」


「男前か?!本音は?!」


「あそこでやいてるおにくをたべたいにゃあ」


「食いしん坊か!おまえのせいでもう食べれないよ!お金がないからね!」


「そんにゃぁぁ…うぅ…」 ガクッ…


 こっちが崩れ落ちたいよと思っていると、リュックがモゾモゾと‥(チュチュー)…鼠が1匹出てきて走り去っていった。…落ち込んでいる食いしん坊はおやつの逃走に気付いていない。

 鼠を見送っていると懐のミニタマがマナーモードで震え出す。ジェフから通信のようだ。


『ウィル様、こちらで少々問題が起きました。』


「ああ、心配ない。多分その問題の発生源はここにいる」


『ではダニー君が?!よかった、安心しました…昼食になっても見当たらないので捜しておりました。しかし小屋に荷物が散らばっていましたがそちらは大丈夫ですか?』


「大丈夫ではないが今更戻ってもなぁ…こっちでなんとかするよ」


 ミニタマ通信を切ってベンチに座りどうしようかと考え込んでいると、おれ達の漫ざ…もとい騒ぎを見ていた屋台の親父が串肉を一本くれた。ダニーが恨めしそうに見つめていたからだろうな…

 親父に礼を言って半分こにして肉を食べる。ついでにギルドの場所も尋ねる。流暢に話すと驚いていたが親切に教えてくれた。


 ギルドへ向かい歩き出すが、ダニーから目を離すとすぐふらふらとどこかへ行こうとするのでリュックへIN、頭だけ出してキョロキョロしている。

広場から近かったようで時間も掛からずギルドへ到着。そっと扉を開けて中へ入ると村の出張所とは正反対の喧しさだ、遠慮なく屁がこける…じゃなくて誰もこちらに気付いてない。酒と食事と会話に夢中なようだ。

 これ幸いと受付へ向かおうとするが、横眼に掲示板を発見。寄り道して張り出されたものを見ると、討伐依頼や採取依頼について書いてある。これぞ望んでいたギルドだよと、落ちていた気分を向上させ受付へ向かう。そこには綺麗な姉ちゃんが。これだよ、これなんだよ。

 


「こんにちは!」


 門番の時同様、堂々と挨拶をかます。が今の姿は受付台に懸垂状態…だって身長が足りないんだもの。まあいい、大抵の事は勢いで押し切れる。


「こんにちは、ようこそハンターズギルドへ!あれ?ボク?誰かのおつかいかな?」


「いえ、ハンターになりにきました。登録をお願いします。小人族なんでこう見えても15歳なんですよ。これに記入すればいいんですね?」


 勢いのまま窓口脇にあった登録用紙とペンを手に取るが…


「こら!嘘おっしゃい!人族と小人族の見分けぐらい付きます!いたずらしちゃダメよ!」


 そう言いつつ回り込んできた受付嬢にヒョイッと持ち上げられ、横の長椅子に強制移動。


「いや、本当はエルフなんだよ!試験を受けさせてくれたら分かるよ!普通幼児がこんなにしゃべれないだろ?!」「そうにゃ!ウィルはつよいにゃ!おおきないわもこなごなにゃ!」


「はいはい。遊ぶなら他所で、迷子なら後で衛兵さんの所に連れていってあげるから、ここに座ってなさい。」




 ダニーの援護もあったが、その後何を言っても暖簾に腕押し…適当に流される。騒いだせいで椅子の上のおれ達はまるで晒し者だ、建物内の皆がこっちを見ている。気を紛らわす為に近くの兄ちゃんに話しかける。


「なあ?おれは15歳なんだよ、こんなにしゃべれる幼児はいないよなぁ?」


「う~ん…そうでもないぞ、領主様んとこの末っ子もおまえぐらいの時にしゃべってたからなぁ。」


 


 なにやらすげえ気になる情報を得た気がしたが、今必要なのは金だ。座っていても仕方ないので外へ出る。建物横にある木箱を持ってきて、登録用紙の裏にペンで書き込み、箱の側面に張り付ける。




      【荷物持ち&傭兵】

    荷物持ち1時間:2000リル 

  魔獣1体:3000リル(種類、強さ不問)




 ギルドの前で張り付けた木箱の上に立ってダニーと一緒に呼び込みを掛けるが、やはり駄目か…出入りするハンター達は足は止めるが微笑ましい顔でスルーしていく。


「こらぁ!大人しくしてなさいと言ったでしょ?!あっ!こら!待ちなさい!」


 誰かがチクりやがったようだ。ギルドから受付の姉ちゃんが凄い剣幕で出てきたので、ダニーをリュックに押し込み広場へ向かって逃走した。





「はぁ~…」


 ベンチに座り溜息をついてどうしたものかと悩んでいると、隣のベンチから同じ様な


「はぁ~…」


 とした溜息が。そちらにチラッと視線を移すとハンターらしき装備を纏った15,6歳ぐらいの少年がいた。そのまま5秒程見つめていると、突如おれの頭の中にピコーンと電球が!


「やあ、少年よ。おれはウィル。溜息なんかついてどうした?よかったら聞かせてくれよ」


 話しかけると、頭を上げてこちらに振り向く。


「っ?子供?それが少年って…あぁ、いいよ、こっちも気が紛れそうだし…僕はロックっていうんだけど、午前中の依頼でちょっとドジ踏んじゃって…」



 彼はぽつりぽつりとだが話してくれた。最近ハンターになって先輩パーティのとこで剣士見習いみたいなもんをやってたらしい。だがウインドウルフとやらの群れと戦闘中に負傷。後衛にも被害が及んだ事の反省と治療の為、午後の依頼には置いて行かれたそうだ。

 そして怪我を治す為の傷薬になけなしの生活費まで取られたようで、今夜の宿も危ういらしい。


 ……クックックッ…おれが睨んだ通りだ。


「それは困った状況だねぇ…そしてこっちも悩みを抱えていてね…だけど君とおれが協力する事で、互いの悩みを解決出来るんだけど…さぁどうする?」ニヤリ…


 考えが表情に出てしまったか、おれの顔を見てダニーの耳が倒れていた。

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アイアンウィル ~異世界身勝手冒険譚~ じょん どぅ @nanashino_John_do

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