第9話 ペットと街
警備部隊の調整を終えて晩飯の用意をしているとテイラの意識が戻った。起きてすぐは少し錯乱していたが、子供二人の無事を確認したら落ち着いた。意識は戻ったがまだ大分辛そうなので少し食事を与え、安静にしていろと布団へ戻す。詳しい話は体調を取り戻してからだ。
翌日
朝食を済ませたおれは狩りをしに山へ行こうと外へ出る。歩きながら畑の方を見ると警備部隊が元気に働いているようで、ミニタマ達が朝の水遣りをしている。そこへ大き目のカミキリ虫みたいなのが飛んでくる、作物を食ってしまう害虫だ。追い払おうと足を止めるが次の瞬間、ヒュン! シュボッ と消滅した。
「ハッハー! メイチュウデス! ワガクニノリョウクウヲオカスモノハコウナルノデス!」
「…」
「オヤ? ウィルタイイン デハナイデスカ。 オデカケデスカ? カッテニケガヲシタラショウチシマセンヨ ジョウカンノメイレイハゼッタイナノデス!」
「…あぁ、気を付けて行ってくるよ…」
ジェフは調整したんじゃなかったのか?どうやら未だにおれはゴミ箱の部下らしい。気を取り直して山へと向かう。当面の食糧の調達と街へ行く準備の為だ。
先日ギルドで調べた情報によると、開拓村から道沿いに北へ向かうと大きな街があるらしいので、そこで荒らされた畑の補填をしようという計画だ。開拓村にはしばらく行きたくないし…。
それに魔法があるらしいこの世界だ、怪我や病気に効く都合のいい薬などもあるかもしれない。都合がよくなくても、ジェフが薬を解析すればそれなりに役立つだろう。
という事で山菜を集め、牙猪を仕留めて帰ってきたのは昼過ぎ辺り。家の前辺りまで行くと、丁度作業小屋から頭にクロエを乗せたジェフが出てきた。少し離れたところではダニーが飛び回って遊んでいる。
「お帰りなさいませウィル様。」「にゃぶー!」
「ただいま。頼んでたやつ出来た?」
「ええ、出来ております。昼食もありますので中へどうぞ、そちらの獲物は私が処理しておきます。」
ジェフへ荷物を渡すと遊んでいたダニーもこちらに気付きやってくる。
「おかえりにゃ。おやつのモグラをつかまえたからウィルもたべるかにゃ?こんがりやいたらおいしいにょ」
「…いや、おれはいいや、昼飯があるからね…腹壊すなよ」
家に入り飯を食っているとテイラが起きたようだ。おれに気付いて体を起こそうとするが、手を振り振りしてまだ寝ているように促す。
「調子はどうだ?」
「うぅ、すまないウィル殿。大丈夫…と言いたいが正直まだつらい…だが治ったらこの恩は必ず返す。」
「気にすんな。人が受けた恩を返そうと思ったら一生懸けても返せない、どっかの偉人の言葉だ…漫画だけど」
テイラと話をする為に縁側へ移動し腰掛ける。ジャガイモのソテーとお肉をモグモグしていると、外ではダニーが司令官殿に火を起こしてもらってモグラを焼いている…仲良くやっているようだ。
食い終わったので話も切り上げる。その話の内容がだ、なんとアドルフ爺さんを知っていると言うではないか!村はここから見える南の山脈を越え更に進んだ所にあったという。でその村に爺さんがたまに訪れ交流があったとの事。
魔獣の襲撃は大きなものだったようで、逃げているうちに山へ入り爺さんを当てにしてこっち方面へきたらしい。だが最後に会ったのは爺さんが出掛ける前の事で、大分前から帰ってきていない事を告げると気を落としていた。
そしてやはり爺さんは強かったらしい。山脈端の一番高い蘇龍山深くの巨大魔獣や、村一番だったというダニーの親父よりも強かったとの事。そういやジェフのやつも前に巨大魔獣がどうのと言ってたけど、よく無事に辿り着けたな?
遅めの昼食を終えたおれは、また明日への準備に取り掛かりに物置小屋へ。
(チュータどこいったにゃー?でてくるにゃーこわくないにょー ゴンゴンゴン)
物置小屋の前に来ると中からダニーの声がする。中へ入ると棒切れを持ったダニーが何か探しているようだ。
「なにやってんだ?チュータってペットでも飼うのか?」
「あしたのおやつのネズミがにげたからさがしてるにゃ」
「…おやつに名前をつけるんじゃありません!」
なかなかの性格をした猫をしりめに準備を進めていく。ジェフがこの世界の技術に合わせて製錬したインゴットや、高く売れそうな山菜、魔獣の牙や爪をリュックに詰め込む。詰め終わると結構な大きさと重さになったが問題ない、今世のおれは岩をも持ち上げられる。
準備を終え、ふと横を見るとダニーが暇そうにこっちを見ている。遊んでやるかと外に出て、視界に入ったゴミ箱も誘って鬼ごっこをする。獣人だからか話に聞いた親父譲りか、ダニーの身体能力はなかなかのもんだ。そしてこのゴミ箱だが、おれを狙うときだけ本気の速度を出しやがる。後でジェフに獣人村の情報収集と一緒にこいつの調整も頼んでおこう。
遊んでいると日が暮れた。晩飯を食ったらさっさと寝る。明日は早朝一番に出発だ。今回は一人で街に向かう。
ジェフには3人をみてもらい、なによりいつまでも人前で子供のフリをするのが面倒臭い。地球でも幼くして数ヵ国語が話せたり数学を理解する天才もいるし、ましてやここはファンタジーだ。少し変わった子供で済まされるだろう。テイラも最初は戸惑っていたが今は何事もなく受け入れている。
「ではお気をつけて。」
いつものポンチョ装備にリュックを背負い、作ってもらったマルチカム迷彩のマントを上から羽織る。懐に通信用のミニタマ5号を入れて日の出とともに出発。
浮遊術でスイーと浮かび上がり、見送るジェフの姿が小さくなったら街へ向かって飛んでいく。マントが靡いてバタバタと音をならす…誰かに見られても大き目の鳥に見えるだろう。眼下の景色を見ながら徐々にスピードを上げていく。
人や車が通るような道らしきものを辿ってしばらく進み、周りの景色にも飽きたころ、遠方に街が見えた。立派な城壁もあり大きな街だ。
更に少し近付くと、壁の外には畑が広がっており民家と思わしきものもちらほらと。人の姿も確認できたので飛ぶのをやめて着地、迷彩を利用して草叢を駆けていく。
耕作地帯に入ったらマントを脱ぎ道へ出て歩いて進んで行く。こちらに気付いた農家の人が奇異の目を向けてくるが気にしない。
城壁の周りは堀があり、門へと続く橋の向こうには門番がいる。村とは違いこちらは二人立っており、横の詰め所にはまだいるだろう。だがそれがどうした今更だ、怪しまれないよう堂々と歩を進める。
「なんだ?ちっこいのがいるぞ、迷子かな?」
おれを見た門番Aが門番Bに話しかける。
「おつかいだ」
二人の会話に割って入り胸を張ってそう言うと、予想より遥かに簡単に事は済んだ。
「こんな小せえのに大丈夫か?坊主?転ぶなよ。」
ポンチョのフードを取らなかったせいか、幼子のおつかいは珍しくないのか、考えていた作戦は日の目を見る事なくあっさりいけた。
街への潜入に成功し、門から続く道をそのまま歩いていると、屋台などが並ぶ大きな広場が目に入る。もういい時間なので弁当を食べようと広場へと向かう。そこにあったベンチに腰掛けようとリュックをドスンと地面へ下ろすと (フにゃ!)
ふにゃ?
下ろしたリュックの口が勝手に開き、中から見覚えのある白黒模様。
「にゃぁ~~、やっとついたにゃ、きゅうくつにゃった~」
「ダニィーー!?何さらしてけつかんねん!」
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