星の魔女さんに満を持して、惚れ薬をば
「ハぁ、……ハぁ……、ねぇ、は、やくぅ、はやく気持ちいぃの、お……おねがい、だからぁ…………」
息が荒く、内股で足をもじもじと擦り付けるように閉じては、胸を右手で抑え前屈みになっている、長い癖のある銀髪を揺らす小柄な女性。
女性の左手は、今もなお私に縋りつくように私の服の袖を摘み、必死に『おねだり』をしてくる始末。
「ハぁハぁ」と吐息を漏らしながら、情欲に呑まれナニかを訴えるように私を見上げるその表情は、青と水色のオッドアイのその奥に確かに渦巻くピンク色の感情を宿しており、突くともっちりとしそうなその白い頬はほのかに赤く染まっている。色艶やかな唇が一段と艶めかしい。
―――あぁ、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
◇ ◇ ◇
星の魔女さんと一緒に暮らすことになって、早三日。
私は星の魔女さんについて色々と詳しくなりました。
まず、彼女の好きな飲み物はアイスコーヒー。好きな食べ物はオムライス。
あとは昨日、初めて私は夜ご飯に手料理を彼女に振舞いました。好きな人が出来たんです。運命の人を見つけたんです。想い人を手に入れるためには、まずは胃袋を掴むべし、と言うでしょう?なので私の手料理で星の魔女さんの胃袋を掴んじゃおうと思ったのです。
結果は…………
「おはぉお、……………ねぇ、今日の夜ご飯………」
寝ぼけ眼をこすりながら私にふにゃふにゃな笑みを向け挨拶してくる星の天使さん――間違えました、星の魔女さん。
何かを思い出したように私のパジャマの袖を引っ張ると、上目遣いで何かを求めてきます。
「(ふふふっ!やりましたっ。どうやら幼馴染兼メイドのあの子に料理を教わった成果が出たようです!星の魔女さん(の胃袋)は、もう完全に私の虜ですっ!!!)」
私は優しく星の魔女さんの頭をなでなでします。
こうすると彼女は目を細めてネコのように自分から頭を動かすんです。
「おはようございます星の魔女さん。良いですよ、今日も私が夜ご飯を作ります」
「ほんとっ!?やった!」
素直に喜ぶ彼女は見た目相応の年頃にしか見えませんが、彼女はこれでも自称200歳越え。いいえ、この恋に年齢差など微塵も関係ありません!!好きな人が望むことなら私はなんでも出来る女になるんですっ!ふんす!!
それに、現在の私は未だにここの喫茶店で働かせてください、と言えてオラフ。大変申し訳ないことに今は星の魔女さんにご飯やら何やらを奢ってもらっている状態。
働くことも、もちろんそうですが先ずはすぐに出来るお料理から、ですね♪
しかし、私はそんなことを考えながらもフッとほくそ笑みます。私は昨夜、計画を立てたのです。
どうやらここ僅か数日で星の魔女さんは私をほんとーに少ーしずつ気になり始めている様子。ふふふ。こと恋愛において未だに初心で純情というのはどうやら本当のようですね。少し誰かと長い時間ともに過ごしただけで意識してしまうとは………
私は考えます。しかし星の魔女さんが今、私を意識してしまっているのは慣れていない環境に置かれているだけであって、もう少し一緒に暮らせば、きっと彼女はこの環境にもすぐに慣れてしまうでしょう。私が忌避すべきはそれです。
ですからそうなる前に、なんとしてでも星の魔女さんを私に完全にメロメロにする必要があります。
私は今日もお客さんとして『星の魔女の喫茶店』で過ごします。
ふふっ、ふふふ!計画実行です!!!
◇ ◇ ◇
つい数日前から、わたしはある女の子と一緒にここ『星の魔女の喫茶店』というわたしが営むお店の二階で暮らしている。
なんでだろうか。どうやら、わたしは彼女、トキのことを意識してしまっているようなのだ。
わたしはこの数日でトキについて色々と詳しくなった。
トキの好きな飲み物はミルクたっぷりのカフェオレ。好きな食べ物はビーフシチュー。昨日、初めて彼女の手料理を食べさせてもらったけど、すっごく美味しかった。あぁ、また食べたいなぁ。どうやらトキは料理が得意なようで。
あとは、わたしは気にするなと言っているのにトキは自分のことをよく「ただ飯喰らいですみません」と言う。どうやら罪悪感が芽生えているようだ。
彼女は誰かと住むことに慣れているのか、わたしと一緒に生活していても平然としているように見える。少しだけムッとする。わたしは、もうかれこれ150年は一人暮らしをずっと続けてきたわけだから、どうしても緊張してしまう。彼女は、何も感じてはくれないのだろうか。
―――そんな感情が、わたしにも芽生えてくる。少しはわたしを意識してくれても良いのでは?と。
そもそもの話だけど、なんで今まで一人暮らしをしてきたこのわたしが、誰かと住むことを決意したのかと言えば、それは………、常日頃から仲睦まじい同性愛者の女の子たち(わたしから見れば大半は女の子)を見てきたわけで。
―――まぁ、つまり、寂しいと感じてしまったのだ。
だから多少なりとも、彼女を意識してしまうことは仕方のないことだと思う。
まぁそのうち慣れてくれば彼女へのこの未だ不明な感情も治まるだろう。
わたしはいつも通り今日も、定時に喫茶店を開始した。
今日もトキはお客さんとして残り少ないであろうお金を、飲み物を注文して回してくれている。
しかし今日はいつもと違った。彼女はミルクたっぷりのカフェオレではなく、なぜかアイスコーヒーを注文してきたのだ。しかも………、惚れ薬トッピングで。
ま、まさか!トキは既に好きな子を見つけたの!??少しだけ胸にチクッと痛みが刺す。
ま、まぁ。わたしが気にすることでもないか………。
この時のわたしは最大のミスを犯す。惚れ薬と間違えて、似た柄の小瓶に入った媚薬を入れてしまったのに気づかなかったのだ。
そうとは知らずわたしはトキの注文した惚れ薬入りのアイスコーヒーとは別に、いつも通りわたしが飲むようのアイスコーヒーも用意する。これはお客さんと会話をする際にわたしの喉が渇いたときようだ。
そうしてしばらく、わたしはトキ以外の常連のお客さんと会話を弾ませていると、突如として違和感はやってきた。
「(いやっ!ど、どうして!?どうしてこんなに、………っ体があついのっ!?)」
◇ ◇ ◇
ふふふ。どうやら早速効いてきたようですね。
私は星の魔女さんが段々と頬を赤く染め、もじもじとするのをカウンターの一番端の席でアイスコーヒーを飲みながら眺めます。苦いです。
このアイスコーヒーは先ほど、星の魔女さんが他のお客さんとの会話で盛り上がっている最中に惚れ薬入りのアイスコーヒーとすり替えたものです。ふふふ、何という完璧な計画でしょう。あとは、
「あ、あの!星の魔女さん」
「ふぇ?」
星の魔女さんはどうやらもうすでに真面に呂律もまわらないようで。
「少しお時間いただいても、いいですか?」
店内がいつかの時と同じように静かになります。
一瞬の静寂のあと、一斉に『きゃーー!!』と歓声が。どうやら私が告白すると思ったようです。まぁ、あながち間違ってはいませんが。
星の魔女さんは コクン と頷いてくれます。ふふっ、どこか恥ずかしそうです。
再度店内に歓声が上がり、私たちはお客さんの好奇の視線を背に、二階の私生活スペースへと足を運ぶのでした。
さぁ!決戦のときです!!!!
第夜章 第星話 トキと星の魔女 (続く)
――――――――――――――――――――――――――――――
ここで一旦、第夜章前半はおしまいです。
次回は
第一章 近衛女騎士と女小説家
という、また違った魅力を持つ同性愛者たちが『星の魔女の喫茶店』に訪れます。
その中では、少し関係の変化した(進化した?)トキと星の魔女の会話も出てきます。
ぜひぜひ、お楽しみに。
第一章が完成次第、更新しますのでその日まで。
星の魔女の喫茶店 百日紅 @yurigamine33ki
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