第277話 えぴろーぐ

結局、私は王子様から逃れられなかった。

私の引け目は、どうもバレてるっぽい。

王子様は王様になっちゃって、私に難題を色々ぶん投げてくる。

私は一応辺境ぐらしを許されてるけど、ぶん投げられた難題の解決策模索で国内外を問わず飛び回ってる。

断りたいけど、王子様を王様に押し上げちゃった引け目が…。


カレンはガイと結婚して南町の代官夫妻になって子育てしてる。

子どもは男の子と女の子の双子で、海外のお土産渡しに行くとちょこちょこ寄ってきて抱き着いて来るのでめちゃくちゃ可愛い。

幸せそうな家族で、見ていて心が暖かくなる。


なんとリーナも結婚した。

王女様になっちゃったので直系の子孫を望まれ、お見合い話に辟易としていたはずが、魔道具や魔物討伐方法の視察に来た他国の王子様の案内役をしてるうちに、リーナの方がその王子様に好意を持った。

案内中紳士的ではあるものの、リーナに全くアプローチせず、真剣に運用方法を学ぶ姿に好感を持ったそうだ。


その王子様は護衛も付けずにラフな服装で視察した砦内を歩き回り、平民の討伐兵から教えを請い、一緒に後片付けまでする。

そして町中を走る子供を見て頬を緩めて見守る姿に、リーナがキュンときちゃったらしい。


視察後に文通を経て、リーナの方から告白した。

だが、相手は他国の王太子。お互い義務を放棄する訳にはいかない。

リーナは王兄となった伯父の息子に、次代の玉座を任せて嫁に出ようと画策。

各所の説得に当たっていたが、惚れたお相手が王太子の座を弟に譲ってしまう方が早かった。


しかも、婿に行っても次代の玉座なんていらないから一緒に周囲を説得しようとまで言ってもらい、リーナは完全に落ちた。

結婚式で見たリーナの幸せそうな表情に、心から拍手を送ったよ。


今は我が国の魔物討伐方法や魔道具を世界の隅々に広めることで王族の義務を果たそうと、夫婦で私以上に世界を飛び回ってる。

すごく幸せそうだけど、頑張りすぎると父親の二の舞いになるから気を付けてね。


ノーラは魔道具技師養成校の校長続けてるけど、養成校の学生が留学生合わせて千人以上というマンモス校になっちゃって、魔道城から身動きが取れないらしい。

幼少の頃のトラウマからか、婚約の申し出は全て断っている。

今では卒業生の中から引っ張り込んだ講師陣に囲まれ、魔道侯爵に昇爵して魔道具の女王的扱いを世界各国の要人である教え子たちから受けてる。


ペンガス領の対魔物最前線は格段に押し上げられ、森は五十キロほども伐採されて農地が広がってる。

私の自宅のすぐ近くまで森は切り開かれ、南方向の景観は農地一色だ。


実はこの農地、将来の人口増に備えた実験農場。

私が作った魔道農機具があちこちで動き回り、少人数での収穫増大を実験中です。

実際何度か収穫を迎え、収穫高は予想を超えて上々だ。

すでに魔道農機具は、国内に展開が始まっている。


世界では魔物被害がどんどん減って来てるので、人口増加が各国で始まってる。

このままでは増えた人口分の食料を賄えなくなるので、農業の改革が必要になる。

それまでに大規模大収穫少人数の農業ノウハウを確率する予定です。


あと、食料問題へのアプローチがもうひとつ。

料理から水分を抜いた乾燥食料も、期待通りとは行かなかったけど、一応実用化はできた。

当初は料理から水分抜けば、それで長期保存できるだろうと考えてたんだけど、それほど甘くは無かったよ。


第一に、水分を抜いても脂分が多い料理だと、割とすぐ傷む。

第二に、脂分が少ない料理でも、多湿地域だと吸湿しちゃって傷むのが早い。

だけどそれでも保存期間は伸びたし運搬性も良くはなったので、魔物最前線では結構使われてたりする。

冷凍や冷蔵の魔道具で保存すればまあまあ長期保存できるので、傷んで廃棄する食材は減ってると思うよ。



そして私は子育てを始めてる。

いやぁ、旦那も子どもも持たないつもりだったんだけど、ちょっと事情があってね。


ある時、海外から帰る途中に、一隻の中型帆船が漂流しているのを発見した。

嵐に巻き込またか、メインマストが折れ、フォアセイルとラテンセイルが裂けていた。


発見当時の生存者は母娘(おそらく)二名のみ。

母親らしき人は、残念ながらすぐに息を引き取った。

混濁する意識と戦いながら、どうかこの子を助けてと言い残して。


驚いたよ。魔素感知では、弱った人が一人だと思ったの。

実際にその女性を前にしても、魔素を殆ど感じなかった。

正確には、ほとんど非生物と同じレベルの魔素量だったから。


人として魔素感知できた方の一歳後半か二歳前半くらいの幼女もぐったりと半覚醒状態だったので、経口補水液を作って飲ませ、船室に寝かせようとした。

だけど船内のいたるところには腐乱死体が放置されていて、とてもじゃないけど幼女を寝かせられる環境じゃなかった。


なのでクサフグ君の後部座席に寝かせ、船自体を最高速で飛ばせてシュバルツ領港町の街主邸に助けを求めた。

迅速な手配で幼女は助かったものの、船内を捜索しても、母娘の出身や素性を直接的に示す物は無かった。名前すら不明だ。


座礁してたとこを救助した船の船長さんが助けてくれて、船内にあった金貨から国を割り出し、出港した港まで特定してくれた。

だけど情報を辿れたのはそこまで。

乗っていた船は密貿易船だったらしく、出港目的はでたらめ。

当然乗客の情報も無い。


私は助かった幼女を引き取り、ナディア(希望)と名付けた。

あの魔素量で生きてて私に子どもを託す言葉を残したあの女性の、おそらく母としての執念。

託されて請け負ったのは私だから、子どもを第三者に任せるなんてことは私にはできなかったんだよ。

だから私が育てることにしたの。


そして私は、船内に残った着替えの衣類や装飾品などをスケッチし、各国の宮廷魔導師たちに送って情報を求めた。

私が遠出する場合はガイ夫妻がナディアを預かってくれたため、出張先の現地周辺でもスケッチを見せて訪ね歩いてるけど、未だ有力情報は無い。


ナディアが大きくなったら、一緒に世界中を探し歩こうと思ってる。

それまでに、平和な世界になってたらいいな。


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キャトられて異世界 やっつけ茶っ太郎 @chimilunamiy

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