転生中毒

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転生中毒

 いらっしゃいませ。 あなたも転生をご希望ですね? どうぞ、お好きな本をお選びください。


 ええ、いずれの本に転生した場合も、主人公としての人生を体験していただくことになります。他の登場人物になれないことはご了承ください。ですがたくさん本がありますから、きっとお好みの人生が見つかるかと。


 制限はございませんよ。飽きたらここに戻って来ていただいて、また本を選び直してくだされば。もちろんご満足いただけたら、お帰りくださって結構ですとも。満足できればですがね。


 含み? そんなものはありませんよ。ですが、ほら、あちらの方。食事や睡眠が等閑なおざりになるくらい、転生に夢中になってしまって。困ったものです。実はこちらの方も、そちらの方もです。もう長らく通い詰めていらっしゃるんです。あなたも気をつけてください。


 いや、最初は幸せそうにしておられたんですよ? でもいつの頃からか、皆さん全く表情が動かなくなってしまってね。転生を繰り返すうちに、きっと飽きてしまったんでしょう。物語になる人生というのは、普通ではないような――たとえば波乱万丈だったり、煌びやかだったりするものだと思うんですが、それでも飽きてしまうなんて本当に悲しいことです。でもね、もう現実には戻れないんですよ。現実世界で得られる刺激など、英雄譚や冒険譚には遥かに及ばないものですから、退屈で仕方なくなってしまうんですって。


 仰る通り私は転生未経験者です。お客様方のお姿を見ると、転生する気になんてなれませんよ。夢に酔えるうちはいいんですけどね。そうでなくなったとき……夢が現実になってしまったとき、私たちはどこに心を逃がせばいいんでしょうかね。それを考えると、怖くって。


 転生はおやめになりますか。それがよいかと。あなたが戻れる人でよかった。大して楽しくはない現実で、それでも、できるだけ楽しく生きていきましょう。一緒にね。

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