電妄本屋
ウミウシは良いぞ
本文
かつて隆盛を誇った書籍産業は荒廃した。ここは
時代遅れの本。文豪の私小説から、雑多な政府批判まで混在している。棚は乱雑で、本は無造作に重ねられ、空いた空間に押し込まれている。表紙が破れ、ページが黄ばんでいるなど、傷んでいる本も少なくない。カビや腐敗臭が漂い、通路にはネズミがウロチョロしている。
買い手は合法的や非合法を問わず雑多な顔ぶれである。ある者は苦境に陥った元学者であり、またある者は手っ取り早く儲けようとする犯罪者である。
店の雰囲気は、静かな絶望に満ちている。客は、外に潜む危険を警戒しながらも、目的の本を手に入れ、急いで立ち去ることが多い。
『電子書籍推進協定』
その結果、出版業界は致命的な打撃を受け、多くの企業が倒産した。紙媒体の本は、冷たい利便性に完全に取って代わられ、遠い記憶となった。
「それで、ここに例の本があるのか」
本屋の中で更に奇妙な男が居た。高級感漂う燕尾服を着た背丈の高い男。富裕層のような雰囲気を纏っていた。しかし頭部は上流階級が嫌う
彼の仕事は、探偵。
「政府も
男は期待で満ちあふれていた。政府の陰謀。
「こちらになります」
古本屋の店主が取り出したのは一冊の薄い本だった。男は愕然とした。政府や企業が書くしたい物とは、これほど小さな情報媒体に収まるのか?男は怒りを感じてきた。男は
「『正しいお米の炊き方』」
2057年。過剰に推し進められた減反政策によって日本の食文化は崩壊した。
電妄本屋 ウミウシは良いぞ @elysia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます