薄桜色をした彼女

鷺島 馨

薄桜色をした彼女

 染井吉野が咲いた頃に俺と彼女は知り合った。

 俺の勤める本屋に訪れた時から彼女に惹かれている。


 特徴的な髪色、薄桜色をしたストレートロング。

 華奢な体躯と整いすぎた顔立ちは西洋人形を彷彿させた。


 意外にと言うのは彼女に対する偏見かもしれないけど、彼女は同年代の女子が読まないような本を買っていく。

 今日、レジに持ってきた本はシリーズ最初の本が発売されたときに彼女は産まれてない。忘れた頃に続きが発売された。

 だから思わず声をかけてしまった。

「そのシリーズ好きなの?」

「えっ、あっ、はい……」

「あっ、ごめんなさい。自分もその作家さん好きなんですよ。だから、つい声をかけてしまいました」

「そうなんですね、おかしいですよね。私の歳でこの本買っていくのって」

「ん〜、良いんじゃないですか。どんな本を読んでも」

「そう、ですかね」

「そうですよ。あ、もしその作者さんの初期の本に興味があるようなら貸しますよ」

「えっ、良いんですか?」

「ええ、今度持ってきますね」

「はい、楽しみにしておきます」


 何度も本の貸し借りをした。感想も言い合ってきた俺達だけど河津桜の咲いた晴れた日に初めて職場(本屋)以外で彼女と会っている。

「晴れてよかったね」

「そうですね。私、楽しみにしてたんですよ」

「そっか、俺も楽しみにしてた」

 いま、俺と彼女は土手沿いの河津桜の並木道を並んで歩いていた。

 少し手を伸ばせば触れることができそうなその距離がもどかしくも心地いい。

 チラリと彼女を窺うと本屋では見ることのできなかった無邪気さで河津桜を眺めていた。


「初めて君を見かけた時は染井吉野が咲いてたね」

「はい、でも今年はその頃まで居られないから、河津桜を見にこれてよかったです」

「そっかぁ」

「帰ってきたら会いにきます。晴彦はるひこさん、待っててくださいね」


 初めて、彼女・杵島きしま 桜華おうかに名前を呼ばれた。

 俺達の関係も変わっていくのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

薄桜色をした彼女 鷺島 馨 @melshea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ