【掌編】夢見堂書店~777文字で綴る物語①~

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

とある病弱少年の物語

 僕は今日も眠りにつく。


「やぁ、いらっしゃい」


 目を閉じればここに来れるからだ。

 本の詰まった本棚にぐるりと囲まれた場所に。


「こんばんは。新刊はあるかな?」


「今日はどんな人生ほんを読みたいんだい?」


 常連の僕はこうして毎度、店主と話をする。

 いつもレジカウンターに座って客を出迎え、常に微笑みを絶やさない朗らかなお爺さんと。


「勇者の話が良いな」


「ホッホッホッ! 坊ちゃんはその話が好きだねぇ」


「うん! だって現実はツマラナイもの……。だから、楽しいお話が読みたいんだ!」


「そうか、そうか。じゃあワシのオススメを今日も紹介しようかねぇ」


 そう言って店主は振り返ると背後の本棚から三冊の本を取り出し、机の上に置いて僕に見せてくれた。


「さぁ、どれがいい?」


 キレイな絵が描かれた表紙を見るだけでもワクワクし、タイトルを確認して僕は悩んだ。


「あれっ? これって――」


「あぁ。これは前に坊ちゃんが来た時に読んでいた本の続きだね。この本の人が昨日これを売りに来たから出来立てホヤホヤだよ」


「じゃあこれにする! だってすっごく面白かったんだもん!!」


 僕の心がはやる。

 ここで買った本を読めば僕は自由になれるのだ。

 僕がまだ幼いからと知らされていないが、残された時間は後もう僅か……。

 そんな中での寝たきりの毎日はツマラナイの繰り返し。

 噓つきの笑顔しか見せなくなったママを見るのは辛い。

 だから毎夜毎夜、こうして僕は人生ほんを買うんだ。


「まいどあり。ではお代を頂くよ。――おや? 坊ちゃん、払えるお代がもう残り少ないようだよ。それが最後になるかもな」


「もう!? 早かったなぁ。もっともっと、ここにある人生ほんを読みたかったよ。だってすっごくドキドキするんだもん」


「そら残念だ。でもまだ幼い坊ちゃんには読める本の数は限られているんだよ。楽しい記憶が少ないからね」


「ふ~ん」


 僕は今日眠りにつく。

 楽しい過去あしたを見る為に……。

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