異世界で本屋になったけど、エロ本しか仕入れられない様子

小エビのサラダ

プロローグ スキル【本屋(嘘)】

 気がついたら、異世界にいた。


 それに気がついたのは、冒険者風の格好をした人々がクソほどでかい塔にこぞって入っていくのを見た時。


 エルフとかドワーフとかも見かけたし、魔法を使ってる人も、剣をカッコよく振ってる人もいた。


 正直、めちゃくちゃ憧れたし、嬉しかった。


 現実にはどこか飽き飽きしていて、自分のしたいこともなく……正確にはしたいことは沢山あったけど、それだけをして生きていけるほどの才能はなかった。


 だから、諦めていた。つまらない仕事をして、生きるためだけに働いて。もはや、働くために生きていたようなものだったから。


 でも、異世界に来れた! 自分もこれから変わることができるかもしれない。数々の物語の主人公のように、圧倒的な力を手にして、楽しく自由に生きていけるかもしれない!


 そんな希望を抱いて、定番のあの言葉を呟いた。


「ステータス!……え」


 俺のスキルは【本屋】だった。


◇◇◇


 本当は【強奪】とか【全魔法】とか【剣聖】とかの戦闘スキルが欲しかったけど。それでも俺はめげなかった。


【本屋】というスキルは本当に謎だけど、最近はこういう謎なスキルが実は強かったりしてそれで無双する展開が流行っているし、俺もハマっていたからだ。


 そんなわけでスキルを発動させてみると、スキルの名前通りに本屋が出現した。


 思っていたより大きくて少し焦ったが、街中でなくてよかった。ここはダンジョンの近くで、周りにも商売をする露店などを出している人もいたので、きっと違法ではないはずだ。


 早速店の中へ入ってみると、すっからかんの本屋があった。内装は家の近くにあったツタ◯に似ていて、なんだか馴染み深かった。


 いつも店員さんがいたはずのレジの方をなんとなく見てみると、そこにはぽつりと不自然なパソコンが。


 近寄って画面を見てみると、どうやらここで本の仕入れができるらしい。


 いつまでもすっからかんなのは寂しいし暇なのでさっそく本を仕入れてみようと画面を操作すると、まずはエロ本が画面に表示された。


「ほぉ……これは結構刺激強めだけど、こういうのも仕入れられるんだ」


 でもこれはちょっと置いておいて、普通の本屋におけるようなものから置いていきたいと思っている。


 次のページにスライドさせるも、またエロ本。その次もその次も、いくつページをスライドさせても、エロ本しか画面に表示されなかった。


「なにこれ、バグ?」


 流石に違和感を覚えてきて、一覧を開き流し見してみると、どうやら仕入れられる全ての本がエロ本だということがわかった。


「えぇ……なにこれ、天罰?」

 

 どうやら、まともな本屋経営は無理そう。


 だがまあエロ本も嫌いじゃないし、むしろ好きだし良いんだけど。これがこっちの世界の人に売れるかどうかが問題だ。


 もし売れないなんてことになったら、ただの個人観賞用になってしまう。


 それを確かめるためにも、とりあえず客を呼び寄せてエロ本を進めてみるしかなさそうだ。もしかしたら、売り上げ金額に応じてレベルが上がって、別の種類の本も仕入れられるようになるかもしれないしね。


 ということで、客1号と2号を連れてきた。


 この人たちは隣の店舗で買い物をしてた冒険帰りの冒険者達で「エッチな本たくさん置いてますよ」と声をかけてみたところ、ものすごくコソコソとした俊敏な動きで入店された。


「そ、それで……? そのブツはどこにあるんだよ」

「え、エッチな本があるってのは嘘じゃねえだろうな? もし嘘だったら……」

「もちろん嘘じゃありませんよ、ほら、これとかどうです? この作品のポイントはまず顔がいいのは前提としてこのカラダ! この童顔にこの大きさは反則級だと僕は思いますね。それにこの大人っぽい……ん?」


 どうやら興味津々の様子だったので、俺一押しの本を少し開いて商品説明をしてみたのだが、気がついたら2人は鼻から血を噴き出して気絶していた。どういうこっちゃ。


 しばらく2人を楽な体制にして寝かせていると、復活。


 今度は少し耐性がついたようで、前屈みになりながらも俺のオススメを1冊ずつ購入。そのままの体制で、宝物を抱えるようにしてコソコソと帰っていった。


 なんだか不思議な2人だったな。あんなコワモテなのに、あそこまでピュアだとは思ってもいなかった。


 この日はとりあえず実験成功ということで、さっきの2人から得た金で適当に飯を食い、就寝。


 しかし、次の日からは多忙の毎日だった。


 どうやらこっちの世界ではエロの供給が過剰に不足しているようで、この店の噂は瞬く間に広がり、全国各地から人々が訪れるようになった。


 様々な商会とも契約を結び、どんどん売り上げを伸ばしていく俺のエロ本屋は、予想通りある程度稼いだところでレベルアップ。


 しかし、店舗が広くなったり、新しいエロ本が追加されただけで新ジャンルの追加はなし。


 どうやら、やはり俺のスキルは【本屋】ではなく【エロ本屋】のようだ。


 しかし、これもいいだろう。俺はこの世界の男達の救世主となったのだ。いや、男の欲を発散させることで性犯罪の防止にもなったと聞いた。つまり、女性の救世主でもあるのだ。


 思っていた形とは少し違ったが、十分充実した異世界チートライフ。これからは楽しんで生きて行けそうだ。


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